第3話 似てるから(1話完結)

「付き合ってください」


 五月の頭だというのにまるで真夏のような日差しが照り指す大学のキャンパスで健二は定子に告白した。

 二人は四月に大学に入学した新入生で同じグループにいる。定子はファッションが好きで男からモテるタイプ。対して健二はいかにもモテない男だ。

 同じグループで健二が一番仲の良い博之も「いやいや定子は面食いやからさ。健二が告白しても付き合うことは無理だよ」と散々止めた。

 しかし健二は自信ありげに「いや、たぶん大丈夫だと思うよ」と博之の言葉に耳を貸さなかった。


結果は……

博之の予想した通りのものだった。


「ごめんなさい。私、健二君のことをそういう風に見たことないから」

友達として思いやりを込めつつ、定子はハッキリと断った。


「いやいや、そんなことないでしょ」

健二はそれを認めない。


「え?いや本当に。付き合うのムリだから」断ってるの全く気にしない健二に定子は言葉を続けた。

「ほら私さ。3代目の岩ちゃんが好きなの。ああいう顔が好きだからさ。ごめん」


「いや、だからいけると思ってさ。ほら岩ちゃんと俺の目、似てるだろ」


「え?岩ちゃんは二重で目が大きいじゃん。健二君は綺麗な一重で細い細い目でしょ。全く違うから」


 なんでなんで、頭にハテナが浮かんでるように健二が笑う。

「何言ってるの。ほぼ一緒でしょ。顔全体からみた目の位置。ほとんど一緒じゃん」


 ボケなのか本気なのかわからない健二の返答に定子は戸惑う。


 その定子の雰囲気に気付かずに健二が話を続ける。

「それとほら鼻も似てるでしょ」


少し怖くなった定子はすかさず答える。

「顔の中の位置は似てるよ。でも大きさも形も違うよ。岩ちゃんの鼻はスッと長くて高いから」健二君のはと話を続けようとしたらそれに割って入って健二が話す。


「ほら色艶がほぼ一緒じゃん」


 完全に恐くなった定子は答えず顔がひきつっている。その反応にも気付かず健二はまた話し出す。

「あと最後に耳がさ。」


 この言葉に次は定子が話を遮る。

「位置とか色艶とかほんまやめて。本当に怖い私」


 もうその場を立ち去ろうとする様子の定子にちょっと待ってと手で合図しながら健二が言う。

「ちょっとこれだけ見て」

と、ポケットから二枚の紙を取り出して広げる。誰かの顔のようだ。


 岩ちゃんの顔写真だ。一枚は正面からの写真。もう一枚は真横からのものだ。それを定子に見せながら健二が言う。

「ほら見て。耳の形。もう全く一緒だろ」

 右手の人差し指で、自分の耳と写真を交互に指さしながら定子に語りかける。


 もう定子は相手にしたくないのだが、このままでは話が終わらないと考え、二秒ずつそれぞれを交互に見つめる。


 定子の目の色が変わる。耳の形など見てもわからないと思ったが、実際見比べてびっくりする。

 大きさ、色、シワ、ふくらみ、曲線具合。何から何まで健二の耳と岩ちゃんの耳は一緒だった。


「わあ全く一緒だ」

この数分の不気味な状況もつい忘れ、定子は呟いた。


「だろ」健二が得意気に鼻をならす。これは勝ち戦だと言う雰囲気が流す。

「これでどう?付き合ってくれるだろ」


先程の「わあ全く一緒だ」からトーンを変えることができないまま瞬時に定子が答える。


「絶対ムリじゃ」

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