145話
目の前が揺らいで力が抜けたように膝をつく。
視界がぶれる。蜃気楼か陽炎のように、ゆらゆらと揺らいで見えた。人も物も、あるいは光も煙も壁もなにもかも。
そのあと・・・霞んでいくといえばいいのだろうか、周りの光景が少しずつ濁って黒く染まりはじめていった。それが嫌で見たくなくて頭を押さえたり目を閉じたりと抵抗する。が、何一つ変化はない。
―――突然、突拍子もなく急にガクガクと震えが来る。
それは決して身体が冷えてきたのだとか、あるいは周りの温度が寒く感じるのだとかではない。
しかし一つ、確かな事とするなら。
身体が持たない、あるいは自身の精神が壊れかけているのだと少女は気づいてしまった。当然だ、慣れることなどない残酷で見たくもない何度目かの同じような景色に、内側が限界を感じたのだろう。
だから・・・震えなど目に見える形で大きな悲鳴を上げていると―――表面の少女に気づかせようとしているのだ。
ニィ・・・と震えているはずなのに口角が上がる。どうしてかわからないが、なぜかすごく面白くて笑ってしまった。
足に力を入れてグッと床を踏みしめることもままならないのに顔の筋肉はしっかりと仕事をするらしい。おかげで震えてガチガチと歯が鳴るようなこともない。
それでも少女は笑うことをやめない。
―――さて。
浮かんだその笑みは優越か恐怖かはたまた狂気によるものか。気づく者も答えを知る者も、今の彼女の側にはなにもいない。
だからか。
―――『………そうね、今回はここまで。今度はもう少し長く、ここにいられるようにしてね? もう一人のあたし』
少女の小さな呟きはスッと空気に溶けて消えていった。
―――『………………………アハッ』
プチリと何かが切れた音のあとに、またあの笑い声が聞こえ始める。
それが最後の始まりだった。
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