126話

 くるりとこちらに向いた男とレイラの視線がじっと絡み合う。フードから少しだけ見えるその目はまるで、獲物を虎視眈々と狙う肉食の猛獣のような―――そして草食動物を射止めんとする狩人のようなゾワリとした粘着質な視線それで。

 隠れているはずのその目とたまたま合っただけなのに、なぜかレイラは縫い付けられたようにその視線から目を外せなくなっていた。

 まるで石化の魔法にでも当たったかのように身動ぎの一つもできなくなってしまったのだ。


 それが好機とみたのだろう。男は視線だけを一度ドミニクに向けるとすぐに戻し、ゆっくりとレイラの方に向かって歩き始めたのである。






 ―――忍び寄ってくる恐怖と、そこから来る思考への焦りのせいか。

(……なんで? どうして動けないの………っ!?)

 その2つが頭の半数を大きく占めるほど、レイラは混乱していた。

 ガクガクと震える両足、ガチガチと音を鳴らす歯、そして―――固まったまま動かない身体。震える両足はもちろんその足の先も腕もさらには指でさえも力は入らず、少しも動くことはない。

 その間にも男はゆっくりとこちらに向かって近づいて来ている訳で。じわじわと這い寄ってくるその絶望に、ただただ逃げられずに到達するのをその場で待つばかりだった。




 やがて男は座り込んでしまった彼女の前にたどり着いた。手に持った片手剣の切っ先を目の前の少女の喉にピタリと合わせ、今か今かとその瞬間ときを待っている。

 その時点ですでにレイラの目にも少し涙が溜まっていて。いつほろりと落ちるかはもう、時間の問題だった。










 そして。

 男は一度目を伏せ、それから剣を振り上げた。目の前の少女を一撃で致命傷に至らせる―――そのために。

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