108話
しばらく言葉なく立ったままの女性医師だったが。
ハッと正気に戻ると、
「ディックくん!!」
と名前を呼びながら近寄っていった。
―――そのあと。
治療部屋の片付けをディックやドミニクにも参加してもらいつつ、女性医師はベッドに横たわったレイラの診察と処置を始めた。といっても道具は今使えそうにないので、本当に簡単なものではあったのだが。
ずっとエルフの青年に抱きよせられていたのがよかったのか、大きく目立ったような傷は見当たらない。それにいくらか落ち着いたらしく、脈や精神の状態にも異常はほとんどなかった。
それでも少しだけ風かなにかで切れた傷があったので、それを綺麗に治療したのち、無事診察を終わらせた。
そして片付けが終わったディックに、医師は診察が終わったことやその診察の結果を全て伝えた。
ディックはそれを最後まで聞き届け、頭を下げて感謝の言葉を述べた。そしてレイラを抱き上げると、もう一度頭を下げて客室に戻っていったのである。
✴ ✴ ✴
客室に戻ってきたディックはスカイが開けてくれた扉を潜ると真っ先にベッドの方へと向かった。眠っているレイラを慎重に寝かせ、布団をしっかりと掛けてやる。そのあと近くにあった椅子を引き寄せ、それに深々と腰かけた。
レイラはまだ、気を失ったままの状態だ。だが、女性医師によると意識がないだけで別段悪い状態ではないこと。さらに今はもう眠っているが、ちゃんと目を覚ますことをあのときに聞いた。
左の手をしっかりと握りしめる。
彼女の手は小さいが、とても暖かくて落ち着く。だからか、彼女がちゃんとここにいるということをその暖かさが教えてくれたような・・・そんな気がした。
そのあとレイラはコンコンと眠り続け、一度も目を覚ますことはなかった。起きるかどうか不安はあったが、医師の言葉を信じてディックは看病を続けた。
そして―――あの暴走事件から一週間ほど立った頃。
ようやく彼女は目を覚ましたのである。
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