104話

 聞いた女性医師は悟る。

 ―――このままではこの館が壊れる以前に・・・、と。




 精霊たちによる祝福は言わば一つの『契約』のようなものだ。祝福によって精霊は人間に力を貸し、それを受けた者は力を持つようになる。あるいは精霊による加護を貰うこともある。

 精霊にとっては自由を縛られるので邪魔なことこの上ないが、それでも祝福することによって逆に彼らは力が使いやすくなる。精霊の力を通しやすくするのだ。

 つまるところ、精霊彼らにとって祝福を受けた者は力を使うための杖の役割ということになる。


 ただ、力を使いやすくなるということはそれだけ杖の役割を持つ者たちにも負担がかかるということで。

 精霊にとっての力とは、すなわちこの世界に存在する全ての種族が持つ力・魔力マナ。それも空気中や山・川・森・海などの自然の中だけに沸き上がる純粋かつ驚異的で強大、さらに魔力濃度の濃いモノのことを指す。濃度が濃ければ濃いほどその魔力はより純粋に、そしてより驚異的な魔力となるのだ。

 濃度の濃い魔力それは人間にとって味の濃いスープのようなもの。使えば使うだけ、その身体に負荷がかかるのである。




 ―――その事実を知っているからこそ。

 この治療部屋に彼女が運ばれてきたときから、女性医師はエルフの青年にもバレぬように診察を始めていた。先にどんな状態かを知っておけば、どんな不測の事態が起きたとしても対処の使用ができるから。

 だから運ばれてきた彼女が精霊に愛された者だということも女性医師にはすでに分かっていた。目に見えることはなくても、その圧倒的な存在をしっかりと感じ取っていたのだ。

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