81話

 本来スカイはあまり好戦的な性格ではない。そもそも戦いを好まない種族だ。

 むしろのんびり昼寝をしたり日向ぼっこをしたり、ゆっくりとした時間を過ごす方が好きだといえる。それが山翼猫リュンクスさがなのかは分からない。何度もいうが、彼らの生態系はまだ完全に解明されていないのだから。



 ―――しかし。

 今ここにいる彼女スカイにはいつものほんわかとした暖かい気配は一つたりともない。あるのは相手への明確なる敵対心。そしてそれよりも上回る、身も凍えるほどの怒りである。






 また押し寄せてきた大きな唸り声に隣国の精鋭部隊であるはずの彼らはより一層、ガタガタと恐怖に身体を震わせた。なかにはまだ攻撃を受けてもいないというのに腰を抜かした者、今にも泣きそうな顔になっている者がチラホラ見られる。

 こんな場面をグレイたち冒険者を含め彼らを見た者たちはみな、声を揃えてこういうに違いない。

 『隣国を守る兵士たちなのに、なんと腑抜けたつらをしているのだろうか』と。



 とはいえそれは一部始終を見ていない者たちの想像であり見解だ。反対に全てを見ている者たちからすれば、驚きよりも呆れの方がまさっているといえる。

「………アホなのか、その兵士たちは。分が悪いことなんざ、話を聞いていても明確だろうに」

「怒らせるそいつらが悪いわ。なにやってたかは知らないから分かんないけど」

「なんということでしょう………彼らは眠れる獅子の尾を踏んでしまったのですね」

 とは後日グレイから話を聞いた上からスティーブ・リディアナ・エレミアの言葉である。




 その唸り声は次々に兵士たちを仕留めているグレイにも押し寄せた。

「っ…………!!」

 三角の黒い耳がビクビクと震える。耳鳴りもグワングワンと痺れて、ゾワゾワと身体中の毛が腰の尻尾の毛も含めて逆立つのがわかった。

 先程よりも近い距離のせいか、彼女から放たれる威圧が凄い。ついさっきまで行動を共にしていたというのに―――。下手すれば今の白翼猫ブランリュンクスはあの時以上に圧力をかけてきているだろう。

 比でないはずだ、この状況は。



(どちらにせよ………っ)

「殺らなければ、終わらないのにゃ!!」

 グレイは一度攻撃を止め、大きく呼吸を整えた。気合いをもう一度入れ直し疲れ始めた身体に酸素をこれでもかと含ませていく。

 ―――その時間、わずか3・5秒ほど。そして次の瞬間には先程よりも俊敏に相手を次々と仕留め始めたのだ。

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