58話

「『いつもこの部屋に来てくれて、僕の話を楽しそうに聞いてくれる』『怪我をした人を連れてくることもあるし、怪我をしてここに来ることも何度かある』『相談してきたこともある』『ほとんどが仲間を助けられなかったことばかりで、自分のことを相談なんてしなかった』―――父から聞いた着物の男の子の話は、いつもいつもそればかりでした」


 内容が図星だったのか、グレイは指摘する彼女の視線から目を反らしている。当たっていることがバレてほしくなくて、かつ見られたくなかったようだ。




 一方レイラは、思い出した父親との会話の数々にまた泣きそうになっていた。

 無理もない。父が亡くなった日から数えるほどしか日数は経っていないのだから、泣きそうにならないと思う方がおかしいとさえ言える状態である。

 ―――それでもふとした瞬間に、その決意が切れかけの細い糸のように綻びそうになるのだ。絶対に『今はダメだ』と自分に諌めていても、どうしても揺らぎそうで。

 けれど繋いでいる幼馴染の手の温かさが自分の決意が綻ばないよう繋ぎ止めてくれている。それが今のレイラには一番嬉しいことだった。

 気付かれないように1つ深呼吸をすると、またレイラは話を続ける。

「あの時のあたしにはなんの話をしているのか全然分からなかった。会ったことのない人の話なんて笑って聞き流すだけでいいと思ってたし……この先会うことになろうだなんて、1つも思わなかったから」

 でも・・・と言葉を切って彼女は淋しげに微笑んだ。

「当たり前ですけど、この先に何があるかなんて分かるはずもないんですよね。父がいなくなることも村が無くなることも……分かるはず、ないんです」



 後ろにいるディックが顔を歪ませる。同時に廻りの反応もどこかほの暗い雰囲気に包まれた。椅子に座ったままでいたドミニクはそっと目を閉じる。

 唇を噛み締めたのち、レイラは口を開いた。

「………会ったばかりなので貴方のことはほとんど知りません。信用してもらうにはどうしたってまだまだ一緒にいる時間が足りない。それは自分でも充分すぎるほどにわかってます」

 けれど、と彼女は言葉を繋ぎながら目のグレイを見据える。その瞳には勇猛果敢に輝くひとつの光があった。

「でも、今だからこそあの会話の意味が分かることが一つあります。それは……貴方が自分よりも仲間の方を大事にすること。他人ばかりを気にかけて自分を大切にしないこと。それが、やっとあの話を理解できたあたしから見る、貴方の姿です」

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