50話

「すごい……!」

 小さな呟きが口から漏れ出る。心のなかで言ったつもりのようだが声として出てしまっているのうだ。だが好奇心の方が勝るため、それには気付いていないらしい。

「? レイラさんは村の外に出たことがないのか?」

 彼女の呟きが聞こえていたのか、スティーブが疑問を口にした。



 それに答えたのは、

「……所詮金持ちのお嬢で怖かったからに違いないにゃ。普通の村人なら隣町にまで用事で出て来るはずなのにゃ」

 さも興味さなそうに話すグレイ。どうやら彼は自分の言った言葉にかなり嫌悪感があるらしく、言ったそばから顔を歪ませている。

 そんな彼の言葉に、レイラはチクリと胸になにか刺さった感覚を覚えた。


「さすがにその言い方は失礼じゃないか? グレイ」

 スティーブがたしなめればグレイは納得が行かない様子で前を見据えていて。その様子は間違いなくこちらに対して不満があると思わせんばかり。だからか視界の端でディックが眉を潜めたのが見えた。

 今にも飛びかかろうとする勢いなので袖口を引っ張ることでそれを止める。こちらが護衛してもらっている立場だし、無駄な喧嘩で困らせたくなかった。

 それに気付いたのか幼馴染みは舌打ちだけして踏み止まると、数分前のように周りの警戒に戻った。




 隣町に近付くに連れて、人通りはさらに多くなっていった。

「……だいぶ近付いてきたみたいね。もうすぐ町に入るわ」

 リディアナの言葉にレイラはほっと息を吐いた。スカイの上に乗っているだけだが、それでも人混みによって少し休みたくなっていたからだ。


 ―――人の波に身を任せて数分もすれば、ようやく遠くに町の門が見えてきた。





           *  *  *





 レイラが住んでいた村・ストックの近くにランデルというそれなりに大きな町がある。

 その町がレイラを呼んだ傭兵組織ギルド支部のある町であり、父・ダニエルが働いていた大きな病院のある町だ。気付いたのは話が終わってさあ寝ようというときであったが。

 ランデルはストックの村より大きいが、だからといって城下町や地方都市に比べるとそこまで大きくもない。しかしそれなりに人通りも多く賑わいのある町で、大きな街と変わりないくらい素晴らしい所だ。

 特に農業が盛んで、毎朝開かれる市場にはたくさんの新鮮な野菜や果物が大通りにごまんと立ち並ぶ。そのどれもが町の中や近隣の村から運ばれるものばかりで、それを求める都市や城下町の料理人コックが後を絶たない。

 また、名医がいる大きな病院がある。最近亡くなってしまった名医がいるものの、それでもまだ他にもたくさんの医者がいるようだ。



 そしてこの町の特徴はなんといっても町を囲む大きな壁だ。高さは人や動物が越えられないくらいのちょっと高いなぁ程度のもの。

 もともとランデルやストックの村を含むこの地方では、たくさんのモンスターが至るところに住み着いている。なかには町の中で育てている野菜や果物を執拗に狙う、害獣のようなモンスターもいるのだ。

 それを守るため、町の人々は壁を造り門を造った。そして、そこを通ってもらうように整備し、発展してきたのだと言われている。







 そんな門をくぐり抜け、一行はようやっと町の中へと入っていった。



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