51話
町の中は多くの人で賑わっている。
ちょうど昼頃だからか、昼市と呼ばれる市場がすでにできていた。朝市とは違っておもに野菜や果物を加工した商品がメインとして売られているのが昼市だ。
それだけではない。立って食べることのできる料理の店もいくつかあるし、木材でできた商品を売っている店もちらほら見かける。
それがここ、ランデルの町の昼市の魅力的なものの一つである。
昼市があるのは門から真っ直ぐに続くメインストリート。両サイドに店があるので、どっちを見ようかと客が迷う造りになっているのだ。
ちなみに宿は数件しかない。あくまでも休憩と観光の町なのである。
おかげでメインストリートはたくさんの人でごった返していた。あちこちで客を呼ぶ店の声、買うか買わないかの商売をしている声が飛び交っている。出来上がった料理のいい匂いや、ちょうど何かを焼いている香ばしい匂いが風にのって漂ってきた。
「……と、通れるの……かな…………」
あまりの人の多さにレイラは怯んだ。乗せているスカイも怖くて怯えている。まずはスカイを宥めなければと頭をゆっくりと撫で始めた。
「今日も変わらず人が多いな。うるさいくらい賑やかだ」
スティーブが呟くように言う。表情は苦笑気味だ。
「うぅ……苦手ですぅ……」
エレミアが怖いとばかりにブルブルと体を震わせ、
「大丈夫大丈夫。わたしがいるしグレイもいるから」
リディアナがそんな彼女を宥め、
「……先に向こうで待ってるにゃん」
グレイが逃げるように一行から離れていった。リディアナの『せめてエルを連れてけよ!』という制止の声も聞かず、颯爽と消えていく。
そして、グレイが離れていったことで余計にエレミアは怯えた。どうやら本当に人混みが苦手のようだ。
そんな彼女を落ち着かせながらリディアナがポツリと、
「……今度会ったら泣かしてやる」
物騒な言葉を小さく呟いたのが聞こえた。悪寒が走ったので聞こえないフリをしたのは、ここだけの話である。
とはいえこうも人が多いのでは進もうにも進まない。スティーブは考えた末にメインストリートから近くの脇道に入ろうと、今ここにいる全員に提案した。
それを全員が承諾すれば、スティーブの案内のもと、脇道へと入って行ったのだった。
メインストリートから近くの脇道に入って数分。ようやく一行は
スティーブたちが所属する傭兵組織支部・『流星の守人』は、ここランデルの町のなかや外の村を守る支部のうちの一つである。
主な仕事内容としては町の警備の巡回・町の条約破りの取り締まり・商人の護衛などなど。人数はそれほど多くないが拠点としているメンバーは多いとか。なぜなら近くに国境があるからだ。
もうひとつ付け加えるならばこの町のギルドの
もともとが由緒あるどこかの貴族の家なので、とても豪華かつ機能的だ。近くでみるとその光景に圧倒される新参者も多いらしい。
玄関と思われる場所にはすでにグレイがいた。彼はこちらに気付くと文句をいいながらも近付いてくる。
そしてスティーブが何歩か前に出たあと、こちらを振り向いて言った。
「ようこそ、俺たちのホームへ」
―――と。
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