35話
ディックが答えられずにいるといきなり彼女は笑い声を止めた。けれど笑みはそのまま、目を
彼女の視線にまた顔を赤くさせながらも、
「あ、あの………………なんですか」
ディックは恐る恐る訊ねてみた。
すると彼女は、
―――『………あの人ではないのよ、ね。………そうよね、あの人はわたしの目の前で……………っ』
とぶつぶつとなにかを呟いていて。
あまりにも小さい声で呟くので、なにを言ったのか聞いてみようとした。
だがその前に―――
胸の上で赤い光を放っていた小刀が、一際大きく輝きを放った。それと同時に彼女は苦しそうで
その
なぜかわからないが不安にさせたくなかった。
けれど今はどうしても「大丈夫」だと、声に出して言いたかった。
だから消えないでほしいと―――引き留めたかった。
ディックの手はあと少しで彼女の腕を掴もうとしていたけれど。されどそれも虚しく届かないらしい。
彼女の身体はまた炎のような光に包まれた。
光のなかに彼女が消えていって―――次に現れたときには見慣れたあの幼馴染みが糸の切れた
ディックはいま起きたことに呆然とした。だがハッと正気に戻ると彼女の身体をすぐ自分の方に抱き寄せ、
「っおい、聞こえてるか!? 聞こえているのならちゃんと返事しろ!! レイラっ!!」
少し揺さぶって声をかけてみる。
だが一向に起きる気配はない。口元に耳を寄せてみればスゥスゥと小さいがしっかりとした規則正しい息遣いが聞こえた。どうやら気を失っているだけのようだ。
対したことではなかったと安心しながら、ディックは彼女を横抱きに抱え上げた。そして、
「………行くぞスカイ。ここを離れる」
とスカイに声をかけて歩き始めた。
村の跡地をまっすぐ抜けて近くの林へと入る。場所でいうところの村があった場所から見て北の方向だ。一部開けているそこから草木が無数に生えて道になっていない道をひたすら歩き、木の根に足をとられながら一人と一匹は進んでいった。
気付くと彼らは北から迂回して村の跡地の北東部に出ていて。木々が密集している一歩手前でディックは立ち止まった。腕の力だけでレイラの身体を支えると、右手をかざしながら小さい声で一言呟く。
そうすると・・・なんということだろうか。
目の前の景色をぐにゃりと歪ませながら現れたのだ。
あの爆発で跡形もなく消えたはずの、レイラの家が。
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