32話

 眩しいほどの閃光に意識を取り戻した上官の男は勿論のこと、近くまで男を引っ張ってきたディックもわずかに後ずさった。


 光はすぐに炎の柱になってグルグルと竜巻のように螺旋を描き、一際大きく光ってから霧散するように消えていく。


 やがてそのなかから現れたのは―――蒼空へと顔を向ける、深紅の髪の少女で。

 目を閉じているせいで瞳は見えないけれど、彼女は静かに泣いているのではないかとディックは朧気になんとなく思った。




 神秘的でどこか神々しいその光景に、ディックは我を忘れて見惚れる。

 焼き付いていた今までの凄惨な光景が掻き消えるような、儚い幻想が眼の前に広がっていて。だからこそ頬の紅潮に気づかず、さらにいつの間にかキツネ顔の役人がそばを離れていることにまだ気づけなかった。


 ―――やっと気付いたのはある言葉をその役人が言ったから。

 恐怖かなにかでへなへなと力が抜けたように座り込む男は、それでも身体をプルプルと震えさせ、少女を指差してこう喚き散らしたのだ。




!! おま、おおおお前っ、ばっ爆発に………っ!!」 と。




 男の声に気付いたのか、少女は目を開けてこちらを見やる。

 その瞳は蒼空そらよりも海よりも深く青くてきれいで。まるで宝石である青玉サファイアのような美しさがあった。

 だがディックにはその瞳の色で気づくこととなる。なぜならあの幼馴染みの持つ瞳と今の彼女の瞳は、こちらが思わず見間違うほどに似ていたから。

 ―――それもあってか、気づくとディックはその名を口にしていた。











「……………レイ、ラ、なのか……………………?」

 と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る