二章 悪夢と運命の始動

25話

 彼女の腕を捕らえたのはムキムキと筋骨粒々きんこつりゅうりゅうで全体的に体格のゴツい男たち。

 厳つそうな鎧をその身に纏い、両手に籠手を身につけ、片方の手には背よりも高い槍を持っている。鎧の左胸板の部分にはドラゴンの顔のような紋章が刻まれていた。

 それを見た彼女はようやく気付く。どうやら彼らは父の手紙にあったグラスウォール王国の役人たちだと。

 何が起きたのか分からず、混乱したままレイラはまず家の土地から引き離された。そしてそのまま村の中心にまで引っ張られるように連れていかれたのだった。





        *  *  *





 その道中・・・いや、家から引きずり出されるとき。

「は、離してっ!」

 レイラは精一杯抵抗した。男たちの足を力一杯踏みつけ、膝をそのまま男の急所に思い切りぶつけようと振り上げた。

 両腕を掴む男たちの手を、躊躇いなくガブリと噛みつこうとした。ただただ気持ち悪くて、捕まれるのが嫌で嫌で仕方なくて。ひたすらにがむしゃらに暴れた。

 ワアワアと喚き散らしたりもした。スカイを呼ぼうと、大きな声を出そうともした。


 しかしそれをものともせずに男たち―――二人の役人はレイラを無理矢理に押さえ付けた。腕を折る勢いで握りしめた上に両腕を縄で痕がつくほどに縛り上げ、さらに喚くレイラの口にハンカチをギュッと奥まで詰め込んだのだ。

 その布のせいでくぐもった彼女の威嚇を一切合切無視し、強引に引きずり始めたのである。




 村の中心にある大きな樹木の前には、すでに何人もの人々が集まってきていた。老若男女問わず大人から子供まで全て、この村に住んでいる人全員がその場に集められている。

 突然の役人たちからの収集にみな、各々が不安の色を見せていた。

 子供たちは今にも泣きそうな顔だ。きっとなにが起きるのかわからなくて怖いのだろう。それを母親が必死になって宥めながら安心させている。

 しかし、その親たちにも不安の色が表情にありありとうつし出されていた。




 ―――始めに役人である男たちがここに来たことに気づいたのは、この村の長である初老の男性だ。

 名前を覚えるのは苦手なので思い出せないが、何度も家のことでお世話になっていたことだけははっきりと覚えている。そんな村長が顔を青くして震えているのがかすかに見えた。


 それを合図にそのあとからは次々と回りの人々が彼らに気付いていった。

 そのなかでも何人かの人々は捕まっているレイラに気づいたようで。うち数人は今にも男たちに掴みかからんと躍起になっている。それを必死に止まらせようと押さえつけている人も、実はかなり怒っているのではないかと動けないレイラは見ながら思った。


 役人たちは村人たちの間を通り抜けて大きな木のある真ん中にたどり着くと、ようやく足をとめた。

 そして先頭を歩いていたいかにも階級の高そうな狐顔の男が、大きな声でこう言ったのだ。




「命令は下したはずだぞ。『村の中心に集合せよ』と! 『若い娘は誰一人かけることなく我らの前に差し出せ』と!! なのだと!!」

「なのにっ、貴様らは! 平民の分際で命令に背き、あまつさえ若い娘は全員奉じたと嘯いてまだもう一人いるにも関わらず隠し通そうとしたな!?」

「布告に対し虚言を申すその無礼、我らに対する重罪であり万死に値するものだ!! よって村人おまえたち全員処刑とみなし、直ちに執行するもののとする!!」

と。




 あまりにも残忍で無慈悲な言葉に、村人たちは揃って抗議の声をあげた。

「な……っなぜ、なぜ我々が殺されねばならんのだ!」

「あんたたちは隣の国のものだろう!? それがなぜこんなことを……っ!」

 不満の声をあげる者もいた。


「あの子は私らとは関係ない!! 昨日あの子の家族がなくなったっていうのにっ、隣国の役人は化け物かなにかだっていうのかい!?」

「お、お母ちゃんっ……! っオレ、まだ死にたくないよぉ……!」

 レイラを必死に庇う者もいた。

 ボロボロと泣き叫ぶ者もいた。

 子供たちは泣きわめき、その子の親も男たちを怒りの目で睨み付けた。


 しかしそれは、


 ザシュッ―――・・・・・・・


 という、なにかを貫くような音で一気に静けさを取り戻した。同時に、



 ドサッ―――・・・・・・・



 と、誰かの倒れる音とともに沈黙が更に広がっていく。










 次の瞬間、大きな悲鳴がその場一帯に響き渡った。

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