RAILDAYS ~異世界鉄道紀行録~

並木坂奈菜海

第1話 ターミナル

 仕事まみれの生活に疲れ、「旅に出よう、鉄道があるなら異世界がいい」と会社を辞めたのが半月前。

 家を空ける準備や、異世界にいくためのビザと旅券パスポートの発給を受けたのが先週。

 僕が日本を発ち、異世界「ロレンツォ」にやってきたのが3日前。

 ロレンツォ最大の都市、「フェリチダット」で宿を取った。

 そして、フェリチダットから出る長距離列車の切符を手に入れたのが昨日。

 行き先は「マスリーノス」という。


 泊まっていた宿から駅までは、徒歩で5分くらい。

 駅舎は新宿や東京のようなダンジョンではなく、むしろ横浜を思わせるような構造だった。

 エキナカの売店通りは、それというよりむしろ商店街。普通のショップだけでなく、八百屋魚屋まであるのだから。

 僕はたまたま見つけた駅弁屋で、一番人気の弁当を買った。

 そして、改札口へ。

 始発駅のため、ホームは端が1つに繋がっている。

 切符には何番線という文字はなかった。

 入ってすぐの案内板から、「マスリーノス」の文字を探すと、3番線から出ているという。プラットホームは目の前だった。

 そこにいた列車は、見た目が日本の電気機関車のよう。

 具体的には「富士」の牽引をしていたEF66形が一番近い。

 というか、カラーリングもそっくりである。

 客車はその後ろに、1等車から3等車までが3両ずつ。

 1等は新幹線スイートグランクラス並みの値段だったので、僕が選んでいたのは次に安い2等グリーン車。

 席は指定がないということだったので、なんとなく真ん中の6両目に乗った。

 乗客は僕のほかに数人、男性と女性が半分ずつ。

 当たり前だが地球人の僕を見て、不思議そうな顔をしていた。

 そのうちの1人、おじいさんのような人が声をかけた。


「おや、貴方のような若いお方、それも地球の方がこんなところまでおいでになるとは……あまり珍しいものですから、つい声をかけてしまいましての。何か理由がおありのように見えますが」

「向こうの暮らしに疲れましてね、ゆっくり旅でもしようかと」

「それはそれは。でしたら、途中までご一緒してもよろしいですかな? これは単なる年寄りのお節介、お嫌でしたら申し訳ない」


 少し驚きながらも、僕は返事をした。


「いえ、構いませんよ。ただ僕は終点まで行くつもりですけど」

「なんと、それは奇遇」


 その老人も、行先は同じだという。


「ここで会ったのも何かの縁、何とぞよろしく」

「こちらこそ、お世話になります」


 そして老人は、にっこりと笑いながら僕の隣に座った。


「ところで、こちらにいらっしゃるのは初めてですかな?」

「ええ、まあ。というか、地球から出たのが初めてです」

「ほう!」

「自分は鉄道……機械馬車が好きでして。あるところならどこへでも行ってみたかったんです」


 こちらの言葉では「鉄道」をこう呼ぶらしい。


「なるほど……ワシも若いころは同じでしてのう、生まれた家はすぐそばに馬車路レールがありまして、馬車が通るたびに外へ飛び出しては母に怒られておりました」


 すごく好奇心が旺盛な性格なのだろう。

 だからこそ、こうして自分に声をかけてきたのかもしれない。

 

「そろそろ、出発ですかな」


 列車のゆっくりとした息吹きを、足元で感じる。

 外を見れば、景色が動き出していた。

 

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