第54話 商売道具
「それで? これからどこへ向かう?」
「言っておくが外にはまだレーカス商会の人間が待機しているぞ」
アルスとセイコムが訪ねてくる。
「そうだな、まずは俺の部屋へと戻ろう」
「なんだ、忘れ物か? さっきも言ったが余り時間は残されていないぞ」
俺の提案にセイコムが忠告をしてくれたのだが、一先ず俺の部屋に戻る事だけは必須条件だ。
「忘れ物あるがもっと大切なモノが部屋にはあるんだ」
「もっと大切なモノ?」
首を傾げるアルスに向かってヒントを出す。
「ああ、俺達の
部屋に辿り着くとまずは最低限の装備を揃える。
レーカス商会の警備部門から支給されている緊急時の装備一式だ。
そして最後に俺は、バッグの中からある物を取り出した。
「手袋と、小型のナイフと……何だそりゃ? そんな物が忘れ物か?」
「そう、秘密兵器って奴だ」
もっとも最後の一個は既に使用済みではある為、恐らく使う事は無いのだが。
「それで? 俺達の商売道具っていうのは? 装備一式なら床で伸びているあいつらから奪えば良かったんじゃないか?」
アルスの提案も、もっともなのだが、俺が言った商売道具というのは装備の事ではない。
部屋の隅にある机の上に設置されたソレを、俺は指さしてみせる。
「これが? 商売道具?」
「ただの通信魔法具じゃねーか、それも一般家庭用の普通のやつ」
そう、これが俺達の商売道具、そしてあの日、カー子と一緒に出先で購入したマフラーともう一つの買い物の正体、一般家庭用の通信魔法具である。
そのお値段は初日に森でカー子から聞いた通り、文字通り給料一か月分の購入費だ。
「実は出どころは明かせないんだが、俺は超小型の通信魔法具を一つ所持してな、それをキキーリアに持たせてある」
そう、万が一の時を考えて、俺は通信魔法具を購入して自室に設置し、キキーリアには俺の超小型通信魔法具をプレゼントして携帯させてある。つまり――
「これが俺達レーカス商会の最大の商売道具、情報さ」
俺は通信魔法具に魔力を装填してダイヤルをキキーリアの番号に合わせる。
そして待つこと暫く、ついにキキーリアが魔力を込めた超小型通信魔法具から通信が入る。
「タカシさん……タカシさん――聞こえ……ますか……?」
通信魔法具がキキーリアの小さな声を拾い上げる。
「ああ、聞こえているぞ。周囲に人は居ないのか?」
「はい……でも、距離は遠いですが見える所に二人……見張りが立って外を見張っています……」
「よし、いいぞ! キキーリア、そこがどこだか分かるか?」
「はい……ここは……」
そこで通信魔法具の向こう側から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「おい、見張り! 何をしている! キキーリアの奴、通信魔法具を隠し持っているぞ!」
これは、レーカスさん――いや、レーカスの声だ。
「これは……マフラーの下にッ! なんて小型な通信魔法具だ。こんな物を一体どこで……まあいい、そいつを寄越せ」
通信魔法具越しにキキーリアの悲鳴が聞こえてくる。
「おい! キキーリア! 場所を、場所を言うんだ!」
「じょう……つう……かん……ょく……です。タカ……さん……信じて……す……」
取り上げられて距離が遠くなってしまったのか肝心の部分が聞き取れなかった。
何だ? キキーリアはなんと言ったんだ。じょう……じょう……つう……どこかで聞き覚えがあるんだ。思い出せ、思い出せ。思い出せ!
「タカシ! 『情報通信管理局』です!」
カー子の声でピンと来た。そうか、このゴーグレに住む者ならば誰もが知っている町の中心に陣取る巨大建造物、『情報通信管理局』と言っていたのか。
「でかしたカー子!」
最悪町外れにある倉庫街の地下研究施設から向かうパターンも考えていただけにこの情報はとてつもなく大きい。
そして地下研究施設と違って情報通信管理局は街の中心、高級住宅街の中でも最も中心部を位置取っているこのレーカス邸からは目と鼻の先だ。
「直ぐに向かうぞ!」
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