第55話 友との別れ
まずは現在包囲されているレーカス邸から脱出しなくては。
しかし部屋の扉を空けて建物内の様子を伺ったところで、廊下の奥から声が聞こえてきた。
「おい、警備兵達がやられているぞ!」
「探せ! まだ遠くには行ってない筈だ!」
しまった、キキーリアの位置特定に時間を掛けすぎた。
一向に戻らない先遣部隊に痺れを切らして新手の追手が屋敷の中を探索し始めていたようだ。
ガシャン! 途端、アルスの手によって部屋の窓ガラスが勢いよく割られる。
「おい、お前何やって……」
「いいからお前らはベッドの下にでも隠れてろ!」
セイコムが無理やり俺とカー子をベッドの下に押し込んでくる。
ガラスの破砕音を聞きつけた追加部隊の足音が、こちらへ向かって近づいてくる。
こうなればもう二人を信じて隠れるしか無い、俺とカー子はベッドの下で身を寄せ合って息を潜める。
「おいこっちだ! 窓を割って二人が裏門の方へと逃げたぞ! 追いかけろ!」
「俺達は窓から追いかけて奴等を追い詰める! お前達は裏門の方へ先回りしろ!」
味方と思っている者達の言葉をすっかり信じて裏門の方へと走り去っていった追加部隊をやり過ごした事を確認して、セイコムが俺達二人をベッドの下から引っ張り出す。
「どうやら俺達はここまでのようだ。後は任せるが出来るな?」
俺たちに別れの言葉を告げると、窓から身を乗り出すアルス。
「そういうわけだから、ここは俺に任せて先に行け! ってな」
続くセイコムが外に降り立ち、俺たちに向かってウインクをしてみせると、「そこは俺達に任せてだろ」と突っ込みを入れながらアルスもサムズアップを向けてくる。
全く、本当によく出来た友達だよ。
窓から飛び出て裏門の方角へと向かって走り出そうとしている
「ありがとう二人共! 無理するなよ! あと最後の台詞、それ俺の故郷じゃ言うと死ぬやつだからっ!」
「「おぉい!」」
渾身の突っ込みを披露しながら裏門の方角へと消えていった二人を見送り、俺は深呼吸をしてカー子の方へと振り返る。
「ここで使うぞ! たっぷり吸ってけ!」
「言われなくても、今日は遠慮しませんよっ!」
タイムリミットは恐らく日付が変わるまで、大分足止めをくらってしまった為、残り時間はあと一時間といったところか、この一時間が正念場だ。
俺は先程取り出した秘密兵器その一である小型ナイフを取り出すと、いつもの指先とは違い、手の甲に突き立てる。
「痛ッ――!」
「大丈夫ですか? そんなに大きく切りつけて」
カー子が心配してくるが問題ない、この傷には後でもう一活躍して貰う予定だ。
「心配ない。治す必要もないから遠慮なく吸ってくれ」
「それなら、遠慮なく」
血液溢れる手の甲を、カー子に向かって差し出した。
膝を着いて体勢を整えたカー子は、差し出された俺の手を両手で支えながら、そっと唇を重ねてくる。
そして俺の――いや、俺達の命運を賭けた”限定解除”の儀式が始まった。
”限定解除”により精霊化を果たしたカー子の《
レーカス邸の周辺には想定以上の警備兵が待機しており、中には見知った顔もチラホラと見受けられた。
(……先に”限定解除”をして正解でしたね……流石にこの人数は生身ではどうにもなりませんでしたよ)
(……アレスとセイコムの二人も無事にやり過ごして逃げられるといいんだが……)
今は味方として振る舞っていられるが、先程気絶させた先遣部隊の警備兵達が目を覚ませば、二人の裏切りはバレてしまう。
二人の無事を祈りつつ、包囲網を抜けた俺達は、情報通信管理局へと向かって走り出した。
◇
情報通信管理局の内部へと侵入した俺達は、見張りの兵達を躱して最上階へと向かっていた。
途中すれ違った兵達は全員顔を隠していたのだが、全員が警備部門では支給されていない格好と装備をしていた。
ここに居る彼等は恐らく全て、レーカス商会で最も忠誠を誓う者達、即ちレーカス商会の暗部、情報部門の人間達なのだろう。
俺達はただ闇雲に最上階を目指していたわけはない、キキーリアの居場所についてはカー子が事前に推測を立てていた。
一連の事件には必ずゴーグレ全土を覆う巨大魔法陣の仕掛けが関連している。
キキーリアの居場所が情報通信管理局である以上、情報通信管理局の最上階に設置されていると言われている独立情報都市通信魔法の要、大規模転移魔法陣があるその場所にキキーリアは居るだろうとの事だ。
実はカー子の中ではレーカスの正体と目的にもある程度予想がついているらしいが、確定では無い上に間違った情報だった場合、先入観が取り返しの付かない失敗の元になる可能性がある為、俺には知らないまま警戒にあたって欲しいとの事だった。
そして――俺達はようやく最上階へと辿り着いた。
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