第50話 キキーリアの約束
コンコン、扉をノックした音が耳に響く。
「どうぞ――」
扉越しに聞こえてきたレーカス様の声に思わず緊張してしまいます。
「失礼……致します……」
「おお、キキーリアか。こんな夜遅くにどうしたんだい? 私の所を訪ねてくるなんて珍しいじゃないか」
レーカス様の声はとても優しく感じます。本当にこんな優しい声を出す人物が、タカシさん達が言っていたような悪い人なのでしょうか。
「タカシさん達には仲良くしてもらっているかい? おや? そのマフラーは?」
「はい、とても仲良くしてもらっています……これも今日お二人から……頂きました。その、もうすぐ……十四の誕生日ですので……」
そこまで言った時、目の前に居る筈のレーカス様の声が、どこか重い様子に切り替わったのを感じました。
「嗚呼、そうか……そうだったね。あれからもう、八年以上も経つのだね。あんなに小さかった幼子がこんなに大きくなって……良かった。本当に、おめでとう」
レーカス様の口から聞こえてくるのは、紛れもない祝福の言葉であるはずなのに、それはどこか、深い暗闇の底から聞こえて来たかのような不気味さ伴って私を震わせるのでした。
「ああ、すまないね。つい感傷にね……耽ってしまっていたよ。それで? こんな遅くにどうしたんだい? 何か話があって訪ねて来たのだろう?」
後ろから肩を叩かれて、私もハッして我に返りました。
「は、はい……今日はその、タカシさんとカー子さんの事で……お願いがあって来たのですが……」
「ほう、二人の……?」
「はい、その……お二人は三ヶ月間の、試験雇用だと聞いたのですが……」
「ふむ、そういえばそうだったね」
私は意を決して、お願い事を口にしました。
「レーカス様! どうか……タカシさんとカー子さんの二人を……クビになさらないで下さい!」
ちゃんと言えた。言うべき事を言えて私はホッと胸を撫で下ろしました。
そしてレーカス様の反応はというと……
「ははは、そういう事か。大丈夫だよ、キキーリア。二人共よく働いてくれている。二人共このまま継続雇用の予定さ」
よかった。それじゃあ――
「うん? なんだい、その手は?」
「指切り、げんまんです……タカシさんの故郷では……約束をする時に、こうやって小指を絡めて約束をするそうです……この間教わりました」
質問に答えた私は、そのままレーカス様の反応を伺います。
「成程ね、はい、これで良いのかな?」
そろそろ大丈夫でしょうか?
「それでは……指切りげんまん……嘘ついたら、針千本のーます。指きった……」
「おお、それは怖いな。タカシさんとの約束は破れないな」
レーカス様が冗談交じりに言ってきます。
「私との約束も……破っちゃ駄目ですよ……?」
「ああ、勿論だとも。それで、用事はもう済んだかな?」
「はい、夜分遅くに……失礼致しました……」
こうしてまた一日が終わり、数日の時が流れました。そして、運命の日――私の長い長い十四歳の誕生日がやってくるのでした――
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