社会不適合者編
第49話 初任給の使い道
数日後、俺は街中を歩きながらとある物を探していた。
「タカシ、先程から一体何を探しているのでしょうか?」
あとをついてくるカー子が不思議そうに訪ねてくる。
「先日はキキーリアにプレゼントを買う前に色々あったからな。ちょっとあの子の為に買い物をね」
「なるほど、プレゼントでしたか。しかし先程から見て回っているお店の中には、装飾店の類は一つもありませんでしたが?」
そう、昨日の話ではキキーリアにはアクセサリーをプレゼントしようかという話になっていたのだが、俺は先程から家具や雑貨の置いてある店ばかりを見て回っている。
そしてまた新たに辿り着いた店で、俺はようやく目当ての物を探し当てる。
「タ、タカシ……流石にこれはちょっと……それに値段の方も……」
「いや、これで良い。これが良いんだ。すみません、これ一つ下さい」
「一体どういうつもりなのでしょうか。理解しかねますね……」
そういって俺は店を出ると、帰り道にもう一つ、プレゼントを買い足して帰路に着くのだった。
◇
「キキーリア、はいこれプレゼント。これから寒くなるから」
帰って早速部屋にキキーリアを呼び出すと、俺は後から買ってきた方のプレゼント取り出して、彼女の首へと巻きつける。
「わあ、ありがとうございます。大事に……しますね!」
彼女の首には温かそうなマフラーが巻かれていた。
俺がこの異世界へとやってきた時が、夏の終わり際くらいの天候だったのだが、それから秋になりレーカス商会で働くようになり、もうじき冬が訪れようとしている。
カー子から聞いたのだが、少なくともこの大陸に限っては日本に近しい四季があるそうだ。
「本当に……ありがとうございます。実は私、もうすぐ……誕生日だったんですよ。このマフラー、一生の宝物にしますね」
喜んでもらえたようで何よりなのだが、そのマフラーには純粋なプレゼントとして以外にも、別の理由が込められている。
キキーリアの純粋な心を騙してしまっているようで申し訳ない気持ちになってしまう。
「そ、そうか。それは良かった。しかしキキーリア、もうすぐ誕生日なんだな」
「はい、あと五日で……十四歳になります。その……当日はまた……検査の日が重なっているのが残念なのですが……」
そうか、また検査の日が重なっているのか。何もキキーリアの誕生日に重ねなくてもいいのにと思ったのだが、そこで俺の思考はカー子の叫び声によって途切れてしまった。
「あー! それです! 誕生日っ!」
「何だカー子、急に叫ぶんじゃねーよ。ビックリしたわ」
両手で耳を抑えながらカー子を睨みつける。
「あ、その……申し訳ありません」
「それで、誕生日がどうしたって?」
「いえ、その……えーと……」
俺の質問に対して、カー子は彼女に聞かせても良いものなのか迷った様子で、チラチラとキキーリアの方を盗み見る。
「カー子さん。私の事……なんですよね? 教えて下さい……私知りたいです」
俺が言おうとする前に、キキーリアが自分から話を聞かせてくれと言い出してきた。彼女もまた、現実を受け入れようとしているのだ。
「そうですね、わかりました。お二人共
キキーリアはカー子の「この世界では」という言い回しに対して一瞬首を傾げていたが、素直に頷いてみせる。
俺も以前にアルスとセイコムから十四歳で親元を離れて働き始めたと聞いた事があるのでその話は知っている。
「それでは何故成人を迎えるのが十四歳なのかはご存知でしょうか?」
この問には二人共首を横に振って答えた。
「遥か昔の風習で、今では殆ど知られていないのですが、人間族は生涯で十四歳誕生日を迎えた日に、その魂が『世界の意志』と最も波長が近くなり、極稀に後天的に加護を授かるケースがあったそうです。二度目の祝福を受けるその日を記念して、十四歳の誕生日を迎えると、人は大人の仲間入りを果たすという習慣が広まっていったと言われています」
「なるほど、ってちょっと待て。レーカスさんの目的はキキーリアから精霊の力を引き出す事だろう? そして十四歳の誕生日に検査の日が重なっているって事は……」
「その日に何かを起こすつもりで間違いないでしょうね」
キキーリアの様子を横目で伺う。勇気を出して話を聞いてはみたものの、流石に恐ろしいのだろう、若干青ざめて震えているように見える。
しかし彼女は俺と目が合うと、顔が青いままにも関わらず、振り絞ったようにニッコリと微笑んでこう言った。
「大丈夫です。私には……凄い魔法使いさんが……ついていますから!」
本当は怖いだろうに……無理をして、俺は震えるキキーリアの手を握り力強く返す。
「ああ、全部俺に任せておけ」
そして俺は物陰に手を伸ばしてそれを手に取ると、キキーリアの前に差し出した。
「実はキキーリア、今日はもう一つ渡したい物があるんだ。それと――」
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