第26話 レーカス邸への招待
警備部門で働き始めてから半月が過ぎた頃、警備の仕事にも大分慣れて来た俺達は仕事終わりにレーカスさんの自宅へと夕食に招待されていた。
他の高級住宅も溜め息が出るほどには立派で大きいのだが、その中でも一際目立つその建物は、この『独立情報都市ゴーグレ』の要、町中に広がる魔法陣の丁度中心部に位置する建物、『情報通信管理局』と隣合わせる形で、高級住宅街の一端を占領していた。
「いらっしゃいませ。タカシさん、カー子さん、今晩はゆっくり食事を楽しんでいって下さい」
雇用契約を結んだ事でレーカスさんは俺達の事を様付けからさん付けで呼ぶようになった。カー子は自己紹介の際に懲りもせず、レーカスさん対しても”カーちゃん”呼びを推奨していたのだが、やはりと言うべきかレーカスさんも若干抵抗があったようで、今では俺の呼び方を参考にして「カー子さん」と呼んでいる。
ちなみに俺達も本来ならば雇い主であるレーカスさんに対しては「商会長」、もしくは「レーカス様」などと呼ぶべきなのかも知れないが、事前に俺達とは親しい仲を築きたいと、レーカスさん本人達ての希望により、俺達もさん付けで呼ばせてもらっている。
「それで、本日はどういったご用件でお招き頂いたのでしょうか?」
夕食も進み、「仕事の調子はどうか?」等の他愛もない会話も一段落し、丁度食後のデザートが運ばれてきたタイミングで、カー子が本題を切り出した。
その辺りは俺も気になっていたところだ。流石に今話していた仕事の様子等は平日の勤務終わりにでもちょっと呼び出して聞けば済む話だし、働きぶりが気になるなら職場の上司から聞いたほうがよっぽど正確で早い。
わざわざ自宅まで呼び出して時間を取ったという事は、何かしら内密に済ませたい話、もしくは依頼等があるのではないだろうか? というのが、屋敷に招待された時点での俺とカー子の推察だ。
「そうですね。本日お呼び立てしたのは提案したいお話があったからです。まず一つ目ですが、現在されている警備のお仕事の勤務場所の変更です。お二方ともこの屋敷の警備を専属で担当されてはみませんか? 勿論住む場所も提供させて頂きます。敷地内に使用人用の離れがありますので、そちらの一室をお二人に無償でお貸し致しましょう」
以前研修期間を終えて数ある職種の中から警備部門を選んだ際に長距離護送の仕事には就かずに「この町を生活拠点にして欲しい」と言われた時も感じたのだが、今回も提案したレーカスさんの視線は、僅かではあるがカー子の方に向いている事に気付いた。
レーカスさんには以前、俺達は田舎から出てきた幼馴染で、少し歳の離れた兄と妹のような関係だとは説明していたのだが、カー子は見ての通り絶世の美少女だ。
レーカスさんが邪な気持ちを抱いて身近に置いておきたいと思っても然程不思議には思わないのだが、どうも俺にはレーカスさんが色恋に現を抜かすような人には感じられない。
もっと仕事や目的に向かってストイックな姿勢を貫いており他の事にはあまり興味が無い人物。というのが俺の中にあるレーカスさんという人の人物像だった。
俺の小さな気掛かりを余所に、レーカスさんはそのままもう一つの方の提案をしてくる。「入りなさい」という言葉と共に、それを待っていたかのように扉がノックされ、食事を終えた広間に一人の人物が入って来た。
「失礼、致します……」
覇気が無くオドオドとした声で入室の挨拶をして入ってきたその人物に視線をやると、そこに居たのは年の頃十ニ、三歳といった所だろうか、ビクビクしながらこちらの様子を伺っているメイド服に身を包んだ黒髪の少女の姿がそこにあった。
「初めまして……私は、キキーリア……キキーリア・モウラと、申します……」
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