第25話 就職状況報告

 レーカス氏の来訪から暫くして、俺とカー子は町の中心部にあるレーカス商会本店で働かせてもらっていた。


 レーカス商会は王国内でも有数の大商会という事もあって、そこで行われる仕事の種類は多岐に渡り、最初の間俺達は研修も兼ねて様々な職場を体験させて貰っていた。


 一般的な商品を扱う接客部門から、自商会製の商品を製造する製造部門、商品を他の町まで送り届ける輸送部門、輸送業の護衛や各商店を護る警備部門、そしてレーカス商会最大の特徴であり、他の商会の追随を許さぬ強みを持った情報部門等が存在している。


 商品輸送時の警護すら冒険者に依頼せず商会内で専属部門を構えている辺りは流石大商会といった所だろうか。


 接客部門に適正が無い事は以前にも『働き者のオアシス亭』で証明されてしまっている。

 製造部門は正直悪く無かったのだが、俺という人間が毎日同じ作業を延々と繰り返すという苦痛にあまり耐性が無かった為保留にさせてもらった。


 余談だが、俺は現実世界にいた頃にハマっていたMMORPGでも、毎日大量の雑魚敵を淡々と狩って少しずつお金を貯めるよりも、大型のフィールドボスやダンジョンボス等から狙えるレアドロップで一攫千金を狙って金策をするタイプのプレイヤーだった。

 元々単純作業の繰り返しというものに適正が無かったのだろう。その辺り、流石は『社会不適合者』といった所だろうか。


 輸送部門の仕事はそもそも馬車の御者として、馬を操った経験がそもそも俺には無かった。

 更にレーカス商会くらいの規模になると馬では無く走竜と呼ばれる馬よりも早く、牽引力も持久力も兼ね揃えた、走る事に特化した四足歩行の亜竜種を飼い慣らしており、その扱いは馬よりも更に難しく熟練の腕が必要との事で俺達の出る幕は無かった。

 

 当然輸送先での他の仕事は現地での販売、交渉、営業等の仕事になり、接客部門に適正の無い俺は不向きである上に交渉、営業等は新人に任せられる仕事内容では無いとの事で、必然的に輸送部門で俺達が行う仕事は、商会本店での商品の詰め込み、積荷の積み込み、積み降ろし作業等に絞られた。


 ちなみに情報部門はレーカス商会の中でも特に秘匿性が高く、そこで働く人達も他の部門で数年間努めて信頼を得た人達のみで構成されているとの事で、今回俺達が経験させてもらう機会は得られなかった。

 


 そして現在俺達が腰を据えて働かせてもらっているのが、警備部門である。

 大都市間の長距離輸送はレーカス商会の場合は、以前見かけた『魔導装甲列車』を利用している為、警備部門の仕事は鉄道の通らない小規模都市や辺境都市への長距離輸送護送、もしくは町に留まって本店や各支店での巡回や警備業務が主となる。


 冒険者の変わりに長距離輸送の護衛を受け持つ長距離護送部門は、危険性が高いだけあって実入りもよく、安定した収入を求めた元冒険者などが多く就職しているらしく、俺もてっきりこの仕事を勧められると思っていたのだが、こちらから断るまでも無くレーカス氏から、「危険も多い仕事だしお二方にはこの町を生活拠点にして欲しい」と頼まれた為、配属される事は無かった。


 そんな訳で俺達はこのゴーグレの町にある本店での交代制警備業務に携わっている。当初の雇用契約時に俺達から希望した数少ない条件という事もあって、俺とカー子は同じシフトで勤務させてもらっていた。

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