第一章 覚醒 7


「バニラ、私がなぜドッペルゲンガー伯爵と呼ばれているか、知っているか?」

「もしや、他に分身が!?」

「そうとも、すでにクランベリー城に分身を忍ばせている」

「なんと!」

バニラはもちろん、みなが伯爵の用意周到さに感心していた。

「私の分身によれば、ロメロ将軍がホロウィッツ卿と敵対しているらしい。わかりやすく言えば、わたしたちの仲間だ。で、そのロメロ将軍が反乱を企ているという話を小耳に挟んだのだ」

「しかし、クランベリー城はドラゴンを操って、城の守り固めていると聞いている。そのドラゴンは、どう始末する?」

伯爵の意図を理解したバニラが口を挟んだ。

「そのドラゴンだが、弱点がある。クラリス島の言い伝えでは、新月の夜に限って、ドラゴンの力が萎えるそうだ」

「では、その機に乗じて、反乱を?」

「おそらく」

「面白そうだな、オレたちも協力するぜ!」

マイケルが胸を張って答えた。

 そして、ドッペルゲンガー伯爵の分身を通して、作戦決行の知らせが入った。第二次メアリー救出作戦には、チョコ、エマ、バニラ、モモが参加することとなった。


***


3日後。

ロメロ将軍と同じ志を持つオーウェンが、ドラゴンが弱るのをじっと待っていた。にわかには信じがたいが、これに頼るほかない。

 エマとチョコはメアリーがいる後宮の屋根の上で待機し、モモとバニラの二匹は不測の事態に備えて、城外で待機している。いわば後方支援だ。

 ふいにクランベリー城の上空を飛んでいるドラゴンが地上に降りた。傍目にも弱っているのが分かる。これが新月の力か。オーウェンは驚嘆した。

作戦通りロメロ将軍が正門を、オーウェンが逃走用の地下通路を塞いだ。


クーデター開始の合図だ。


ロメロ将軍が一気に後宮へと兵を進めた。

「進め!!」

将軍が号令を発した。

後宮の扉まで来ると兵の一人が中にメアリー王女しかいないことを確認した。勢い良く扉を開けると一斉に中へと入る。

「メアリー王女、こちらへ」

天蓋のついたベットから言われるがままにメアリーは起き上がった。まだ、眠りについたばかりなので、意識ははっきりしている。

 すると天井付近の窓の隙間からボーガンの矢がいっせいに飛んできた。

「何!」

焦った将軍が声を上げる。

 上では”必殺猫飛ばし”をしようと不測の事態に備えていたエマが足を滑らせて、メアリー王女の前に落ちてきた。チョコとともに。

「まむっ!」

突然の姉との再会に、メアリー王女が変な声を出した。

「ロメロ将軍、ぬかったな」

ホロウィッツ卿の落ち着きはらった声が石の壁に響き渡った。ふいを突かれた将軍は四方からボーガンで狙われ、身動きができない。

「どういうことだ!!」

「将軍の反乱計画なぞ、とうにお見通しよ」

ロメロ将軍は絶望した。

自分だけなら、まだしも隊員すべてが後宮の中にいる。きっと捕まったら、ただでは済まない。後宮とは王女様しか入れない絶対不可侵の場所で兵士などは男子であれば、近づくこともままならない。

 続けて、オーウェンと10数名の兵士がホロウィッツ卿の部下に捕縛された状態で現れた。

「愚鈍なる兵士どもよ。地下牢に閉じ込めておき給え」

「ホロウィッツ卿、この子供と黒猫はどうしますか?」

エマとチョコを指しながら、ホロウィッツ卿の部下が尋ねた。

「兵士とは別の地下牢に入れて丁重に扱え。まがりなりにもメアリー王女の姉である」

こうして、第二次メアリー救出作戦は、多くの犠牲を払い、失敗に終わった。

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