第一章 覚醒 6
マイケルとモモがドッペルゲンガー伯爵の屋敷に戻ると、皆が顔を揃えていた。どうやら、ウミガメの涙で最後らしい。
「では、儀式を始めるとしよう」
ドッペルゲンガー伯爵が居ずまいを正す。
飼い主のエマだけでなく、チョコと同じ猫科のバニラも固唾をのんで見守った。
伯爵は寝台の上にチョコを横たえ、矢傷を負った前足の部分に支柱となるコウモリの羽根をまっすぐに立てた。上から弱アルカリ性の温泉を染み込ませると、呪文を唱え始めた。
「水に宿りし、精霊たちよ。今ここに癒しの力を見せ給え」
言い終わると、ウミガメの涙を一滴垂らした。じんわりと淡い光がチョコの前足を中心に包み込んでゆく。数秒で光が消え、チョコの顔からも苦痛の表情が消えた。
少し間があって、チョコは目を覚ますと、寝台から軽やかに舞い降りた。猫の習性で、さっとエマの後ろに隠れる。
一同が歓喜の声を上げた瞬間だった。
すると満を持してホロウィッツ卿が口を開いた。
「さあ、約束は果たした。エマをこちらに渡してもらおうか?」
「どういうことなんだ?」
事情を知らないドッペルゲンガー伯爵がバニラに顔を向ける。
「実は、チョコの治療を終えたら、エマをホロウィッツ卿に渡すという条件だったんです 」
バニラは申し訳なさそうに答えた。
「そうとも、エマ様はスケリッグ王のもう一人の娘でな。第二位の継承権をお持ちなのだよ」
マイケルが無念の表情でホロウィッツ卿にエマを引き渡すと、突然、エマの体が消えた。辺りを見回すと使用人のリーの腕の中にエマがいた。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉ。ドラゴン拳か。賛辞したいところだが、我々の真の目的はすでに果たした。今頃、メアリー様は戴冠式を終え、王女様となられていることであろう!」
マイケルの手がわなわなと震える。
「何? ってことは、お前らは、ただの時間かせぎだったのか!!」
「では、そろそろ行くとするか」
ホロウィッツ卿は悠然と伯爵の屋敷を出た。ここでホロウィッツ卿を取り押さえても、メアリーの戴冠式には間に合わない。マイケルだけでなく、沈着なバニラも怒りを露わにしていた。
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