第一章 覚醒 5
さて、モモとマイケルのペアは、海らしき場所に着いた。対岸が見えないので、おそらく海だろう。しかし、波が立っていない。
気になったモモが目の前にいた二人に聞いてみた。
「これは、海なの?」
「これが海だって? ハハハッ。違うさ。ちょっとなめてごらん。全く塩辛くないからさ」
モモは水際まで行くと、顔をかがめてチロッと舐めてみた。
「本当だ。塩辛くないよ」
「ウミガメはどこで見つけられるんだ?」
後から来たマイケルが尋ねた。
「ウミガメなら、もっと下流まで行かないと見られないわ」
男の隣の白い帽子をかぶった若い女性が教えてくれた。
「下流って、遠いのか?」
「そうね。3時間くらいかしら。でも、どうして海へ行きたいの?」
モモが神妙な面持ちで答える。
「実は友達がボーガンの矢で撃たれてしまったんだ。それで、治療にウミガメの涙が必要なんだ」
「そうなの、早く治るといいわね。あっ、私のおじい様なら、知っているかも。あそこの赤いとんがり屋根の家がそうよ」
女性が細い腕で指す。
少し離れてから、マイケルがモモに聞いてみた。
「モモ、どう思う?」
「何が?」
「いや、信用できそうか、あの二人?」
「もし、信じられなくても行ってみるしかないよ。ほかに手がかりもないし…」
白猫のモモは、四本足でスタスタと一軒家の扉へ向かった。
トントントン。
「何じゃ?」
あごひげを生やした老人が出てきた。
「向こうの女性から、ウミガメの居場所について知っていると聞いて」
マイケルは湖畔を指差しながら聞いた。
「ああ、わしの孫か。よかろう。ちょうど退屈していたところだ。入りたまえ」
おじいさんは、ドアを大きく開いて中へと招き入れた。モモはすっとドアの脇から入る。
「わしが海へ行ったのは、25年前の夏じゃった。目の前のレイク・ミジンコは、少し下流に行くと大きな滝になっていてな。船で行くことはできん。行くなら、馬かロバしかない」
老人は少し間をおいてから続きを話した。
「それから、場所は思い出せんが、ここらへんには妖精の住処があるらしい。もし、出会えたら、幸運が訪れるかもな」
モモが関心を示した。
「何を探しているのかは聞かないが、慌てて探しても見つからない。人はゆったりと構えているときこそ、いいアイディアが浮かぶものだ。くれぐれも気をつけてな」
マイケルとモモは、少し談笑してから、家を出た。思いの外、老人の話が面白かったのだ。
「モモ、あと少しだってよ」
マイケルが馬に跨るとモモは荷台へと飛び乗った。
海に着くと、空が茜色に染まっていた。海面はキラキラと輝いている。
「ウミガメの涙か。一体、いつ涙を流すんだろう?」
マイケルは砂浜に寝転がったまま、つぶやいた。
「産卵するときだよ。満月の夜に浜辺にあがってくるらしいよ」
横に座っているモモがしっぽを揺らしながら、さらりと答えた。
「で、今日は満月なのか?」
「お月さまに聞いてごらん」
「ずいぶんとロマンチックだな」
モモは虫をつかまえている。
やがて雲が夜風に流されて砂浜に月明りが差した。
「ほら、今日が満月みたい」
モモは雲間から覗く丸い月を指していたが、モフモフした猫の手は、どこを指しているのか、マイケルにはよく分からなかった。
「おっ、ラッキー」
マイケルが浜辺から起き上がって、叫んだ。
真夜中。
デリケートなウミガメに気づかれないようにマイケルたちは草むらに隠れた。
「モモ、ウミガメは来たか?」
マイケルがそっと尋ねる。
「まだみたい」
「ラジャー、もう少し待とう」
そう言うと、マイケルは草むらに再び身を隠した。
黒く深い波間に月が浮かぶ頃、遠くから呻き声が聞こえてきた。マイケルが様子を探りに行く。
「おい、モモ、ウミガメっぽいのがいたぞ」
「本当だ。もうすぐ産卵みたい」
マイケルが小瓶のフタを開けて、準備する。
「待って、産卵がピークに入ってから」
モモが前足でマイケルの肩を抑えた。
じっと待つこと数十分。ついにウミガメが涙を流し始めた。
「マイケル、今だ!」
モモのゴーサインが出た。マイケルが素早くウミガメの元に走った。
「よし」
ポタリとウミガメの涙が小瓶に入ると、マイケルがコルクで栓をした。
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