第一章 覚醒 3


 ドッペルゲンガー伯爵の屋敷に着くと、長身のホロウィッツ卿がチョコを両手で抱えて降りてきた。敵ではあるが、礼儀はわきまえているらしい。バニラが大きな門扉のノッカーを叩くと使用人の”リー”が現れた。黒髪で背は低いが体幹はしっかりしている。

「お待ちしておりました。さあ、中へ」

白い手袋をした使用人が案内する。

 広間ではドッペルゲンガー伯爵が丁重に出迎えてくれた。偶然居合わせたホロウィッツ卿のことは知らないようだが、ビュート男爵から、事情は聞いて知っているらしい。


「まず、チョコの治療は可能だ。ただし、魔法による治療には材料が必要となる」

エマが前のめりになる。

「材料は全部で3つ。ウミガメの涙、コウモリの羽根、そして、弱アルカリ性の温泉」

伯爵が三本の指を立てると、ホロウィッツ卿が口を挟んだ。

「コウモリの羽根なら私がとってこよう」

「では、バニラは”弱アルカリ性の温泉”を」

伯爵はバニラに目配せした。

「わかりました。では、エマと一緒に弱アルカリ性の温泉を汲んでまいりましょう」

バニラが恭しくおじぎをする。猫のくせに人間と同じようにあいさつをしたので、エマはくすくすと笑った。

そんなエマの態度をバニラは全く気にしていない。

「じゃあ、オレは残ったウミガメの涙をとってくるぞ!モモを連れてな」

威勢よくマイケルが応じた。



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