第5話 センパイと先輩。

 先輩はよく私に相談してくれた。仕事おわりのほんの数分だが、話してくれた。『あの時どうしてわたしは怒られたの?』『なにがだめだったんだろう?』と。

 わからなかったようだ。理解できなかったようだ。先輩は【雰囲気】、【表情】、【察する】といった言葉がない表現を読み取るのが特に苦手だったようだ。私も苦手だ、難しい。むしろ得意だという人の方が少ないだろう。緊迫した空気の中、上司に逐一確認するのも仕事とはまた別の事なので聞きにくかったんだろう。だから歳も近いし、後輩の私によく話してくれたんだろう。その現場にいれば、私が思う範囲で伝えることはできる。だが、その現場にいないときに相談されるとなんとも言えなかった。せっかく話してくれたのに。ただ聞いてほしい話とはまた違うから、上司にそれとなく聞いてみたり、他の先輩に聞いてみたり、なるべく情景が浮かぶよう、先輩に伝えやすくするよう、負荷がかからないように意識した。

 そのうち先輩の癖や、表情、行動で【センパイ】が私の中で分かってきた。これを上司に、お客様に伝えたいんだな、これをしたいんだな、取りたいんだな、と観察するようになった。でも、わかったからといってそれを私が代わりにすることではないのも解っていた。だから私から先輩の相手に伝えるのはどうしてもの時だけにした。それもどうだったんだろう。私のこの気持ちはただの思い上がりに過ぎないのに。

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