ニアミス

@stdnt

第1話

 西国分寺の駅で、袖をつかまれた。時刻は午後十時半。今年も終わりが近づいていた。

「おい、何してんだよ。」


 かなりの強さでつかまれた。口調も強かった。

私の知らぬ名前で呼び止め、さっき別れたばかりじゃないか、と主張する男の目には、嘘はなさそうだった。


 顔を良く見てくれよ、服装を良く見てくれよ。そう主張したのは私。新手の詐欺でもなさそうだ。


 男は笑っていた。冗談きついよ。来年また会おうって言ったばかりじゃないか。


 訳も分からず、納得しない男と別れた。納得できなかったのは私もだ。


 世の中には、自分にそっくりの人間が三人いるという。そしてそのうちの一人に出会ったとき、その人はどうなるのだっけ。


 北風がプラットフォームをぬけてゆく。


 急に寒さが増したようだった。

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