オモイが為に、爪隠す―2―
我らが生徒会執行部の活動内容は、多種多様である。
校内に設置されている目安箱の確認だったり、広報部と共に生徒会新聞を発行したり、レクリエーションの企画や準備をしたり、文化祭、体育祭の運営に大きく関わるなどなど。とにかく、学校生活に携わるアレやコレの陰に生徒会あり!という風に思っていただければいいだろう。
そんな、忙しさにかなりの波がある部活動だが、先週末で入部届けを締め切った今、その波は更に荒れる事になりそうだ。何故ならいよいよ今日、初めて全学年のメンバーが揃い、自己紹介や活動内容の引継ぎその他諸々が始まるのだから。まあ、それはどの部活も同じだろうけれども。
『いいですか?誠意を込めて謝るのですよ。真心さえ伝われば、瀧本さんだって貴女への評価を改めてくれるでしょう』
『……』
『……何か?』
『前から思ってたけど、來夢って結構難しい日本語使うわよね』
『…………』
今朝方の会話を思い出しつつ、生徒会室へ足を運ぶ放課後。來夢のお説教が後を引き、若干憂鬱ではあるがしかし、やはり今から会えると思うと喜びに弾む胸を抑え切れない。自然と前のめりに、早歩きになってしまう。
(変な顔になってないといいけど……)
頬に手を添えながら生徒会室の扉を開けると、何人かの見慣れない生徒に一斉に振り返られた。が、これしきの事で動じる天華ではなく、至って冷静に面々を見渡す……ふむ、見たところ、全員一年生のようだ。
「あ……こ、こんにちは!」
「竜峰先輩、お疲れ様です!」
「ええ、こんにちは。初めまして……掃除してくれてたの?」
遠慮がちに駆け寄ってくる新入部員らの手にある掃除用具を見て、天華は確認の意味を込めたクエスチョンを投げかけた。
「あ、はい。私達一年は新入生レクリエーションのおかげで、普通に授業がある日よりも少し早めに終わったので」
「そうなんです!だから、先に集まった人で掃除でもして待ってよっかって話になって……」
……いやはや、何とも殊勝な心がけである。天華は素直に感心し、期待の後輩達にお礼を言いながらも……内心では、咲夜の姿が見えない事に、がっくりと肩を落としていた。
──でも。
勝手に期待する事の無責任さを、天華は誰よりも知っている。独りよがりの思い込みで落ち込むなんて、情けないし、馬鹿馬鹿しい。だから、たかがこれしき、気にする必要はない。いや、気にする事自体、あってはならない……。それに、ここにいるのは早めに着いたメンバーだけなのだから、待っていればその内やって来てくれる、はず……
──『……もう、天華だって嫌でしょう、興味の無い事を強制的にやらされるのは』
(来てくれる、わよね………?)
至極もっともな來夢の意見。思い出して、また心が不安に揺れ動く。後輩達との話も半ばだと言うのに、ポーカーフェイスのその裏側、天華は心配で心配で仕方なかった。
さっきまであんなに浮かれた気分だったというのに、今ではその影も形もない自分自身に冷ややかに自嘲してしまう。
ココンッ! ──その時、やや大雑把なノックが室内に響いた。
その音にいち早く反応する、一年生。どうやら扉の向こうにいるのが誰なのか、何となく察しが付いているらしい。ついでに、ノックをしていながら入って来ないその理由も。ただ、今この扉に一番近いのは他ならぬ自分なので、天華は「きっと緊張で入室するのを躊躇っている一年生だろう」と予想を付け、然程疑問に思う事なく扉に手を掛ける。───と!
「ごめーん、誰か開けてー?」
「!!」
声が、聞こえた。今──いや、いつもいつでも聞いていたい、あの声が!
ガラリと勢いよく開け放ち──すぐさま漂って来る甘い香りに、何故嗅ぎ付けられなかったのか疑問に思いながら──天華は、弾む想いでその者をしっっっかと見つめた。
「うぃ、サンキュー!……っへ!?」
「瀧本さん……!」
「なっ!え?あ、えぇ?あっ……失礼しました、まさか竜峰先輩とは思わず……あはは……!」
待ち人来たれり。たったこれだけで、遥か彼方に吹っ飛んで行く憂鬱。嬉しい!よかった、会えた!来てくれた……我ながら単純にも程がある。いや、少し前まではこんな性格じゃなかったのに、恋というものは根底から人を変えてしまうものらしい。
「す、すみません、本当に……早かったですね?それとも、もうそんな時間になりますか?」
瀧本咲夜。一つ歳下。暫定、運命の番。
必死の愛想笑いで小首を傾げる咲夜にうっかり見惚れそうになるが、たっぷり水が入った重そうなバケツがその両手に握られているのを見落とす程呆けてはいない。
気遣いから、咄嗟に手を差し伸べようとしたその時、それよりほんの少し早く駆け寄って来た他の後輩達が。
「ごめんね、ありがとう、瀧本さん!重かったでしょ?代わるよ」
「やぁ、だいじょぶだいじょぶ、これくらい!それよりこっち持って」
「窓拭きスプレーまで持ってきてくれたの?」
「うん、ついでにね……っしょ、と!」
窓際の隅にバケツを置き、無邪気に白い歯を見せる咲夜。可愛い。もう他の子達と仲良くなっていて凄い。……じゃなくて、ああなるほど、両手が塞がっていたからあのノックだった訳か。今思えば確かに、存在に気付いて貰う為にとりあえず扉を叩いた、といったような音だったな、と思案顔で天華は頷いた。
「竜峰先輩、瀧本さんが言い出しっぺなんですよ、先輩方が来るまで掃除してようかって」
「……え?」
側にいた後輩から小さく告げられたそれ。物事には善と悪があるが、朗報すぎると逆に耳を疑ってしまうケースがある事を身をもって知る。
「……瀧本さんが?本当に?」
「はい。というか、ウチらが来た時にはもう箒持ってました」
「……?」
「ちょっと、言わなくていいからそんなの!いや、竜峰先輩、違うんですよ?」
考え込みそうになっていたタイミングで、話を聞き付けたらしい咲夜があたふたと割り込んで来た。
「違うんです。別にそういうんじゃなくて」
「そういうって?」
「え?いや、だから……まあそれはいいじゃないですか」
「……よくない。もしかして、瀧本さん貴女、実は人一倍ヤル気があるの?」
「ち、違いますってば。ただ、疲れて、眠くて、暇で、手持ち無沙汰だったんで!それくらいなら掃除でもするかって思っただけです。そこにみんなが来てくれて、じゃあ一緒にやろー!ってなったんです!褒めるなら二つ返事で手伝ってくれたみんなを褒めてください」
と、心外だとばかりに一息で言い切った咲夜に、他のメンバーが一斉に目を丸くしたのは言うまでもない。何てったって、あの、天華に。同級生である咲夜が、真っ正面から言い返したのだから。もちろん口喧嘩などではないにせよ……何故かせっかくの好印象を打ち消しに掛かっているのも、天華と咲夜の真の関係性を知らぬ者達の目には謎の行動として映った。
そんな咲夜に一つ、残念なお知らせがある。『ちっちゃいのに頑張り屋で気の利く女の子』と思われていた同輩からの印象に、『あの竜峰先輩にも物怖じしない肝の強さを隠し持つ、一目置くべき女の子』と付け加えられてしまったのだ。まあ、そんな事本人は知る由もないが。むしろ、無意味に誰かさんからの好印象ゲージを貯めずに済んだと安心していたくらいだが(※意に介せずしっかり上昇している事も追加の残念なお知らせである)。
「そんな事よりさ!せっかく水持ってきたんだからさっさと残りの分もやっちゃおうよ。竜峰先輩が来たって事は他の先輩方もそろそろ来る頃でしょ?」
「あ、うん!そうだね!」
と、話題逸らしに成功した咲夜はごくごく自然に天華の視線から逃れると、そのまま同級生の輪に加わって行った。本当は今すぐ掃除の件の真意を聞いて、熱い想いを言葉にしたいところだけれども、今は人の目もある。勝負の内容もさる事ながら、來夢の言い分が頭にチラついてどうにも離れずにいる天華は、離れていくその可愛い手を掴みたい気持ちをぐっと堪えて、小さく首を左右に振るのだった。
その後。他の一年生、二年生、三年生が集まり、それぞれの自己紹介や、当面の目標等の周知が行われた。と言っても今日は顔合わせのみで、実際に動き出すのは明日から。それでも双方にコミュニケーションを取ればそれなりに時間が経つ訳で。
「では、今日はそろそろ解散にしましょう。お疲れ様でした。皆さん、明日からよろしくお願いします」
生徒会長•來夢の一声により、皆ぞろぞろと帰路に着いてゆく。一度は同じように帰る素振りを見せた天華だったが、途中まで一緒に歩いていた來夢に「忘れ物したから先に行ってて」と伝え、踵を返した。
咲夜達一年生は掃除用具の後片付けをしてから帰ると言っていたので、すぐに教室に戻れば絶対に間に合い、少しはお話出来るだろうと思っての行動だ。案の定、咲夜達が廊下に出てきたのを見て取れた……が、一応、咲夜以外に見られるのは彼女が良しとしないので、機を伺いつつ柱の陰に隠れておくとする。
「いいからいいから!こんな重いの持たせらんないよ」
「え、大丈夫だよそれくらい」
「けど、バケツ用意してくれたのも瀧本さんだったじゃん?片付けくらいやるって」
「……そお?じゃあお願い。ありがとね」
「うん、バイバーイ!」
ひらひら手を振って去っていく級友を、咲夜は何故だか浮かない顔で見送っていた。せっかく笑顔で後片付けを引き受けてくれたというのに……どうしてだろう?気付けば天華は廊下の角から顔を出して、そっと声を掛けてしまっていた。
「どうしたの、瀧本さん」
「ひゃっ!竜峰先輩、帰ったんじゃなかったんですか?」
「まさか。私がそんなもったいない事すると思う?せっかく貴女と一緒にいれるっていうのに」
「……はぁ、それもそうですね」
「それに、聞きたい事もあったし」
「聞きたい事?」
「掃除の件。本当のところどうなの?」
「う……だから別にそれは……あー、わかりましたよ、お話します。だから、一回中に入りましょう?」
ドキリとした。人目につかないようにする為とは言え、咲夜と二人きりになるのは告白したあの日以来。どうしても意識せずにはいられなかった……が、ここは再度ぐぐっと我慢して、何も言わず生徒会室に入った。
だが、喜びを滲ませるそんな天華とは違い、長く話す気はないのか、咲夜は扉を閉めるなり、それを背にしてとつとつと語り始める。
「えーーーっと……その、何つーか」
ハッとした。その、砕けた言葉遣い。自分(とそういえば來夢)しか知らない素モードの咲夜だ。それに気付いた瞬間、天華の瞳がまたキラリと瞬く。
「……きっかけはめちゃくちゃでしたけど、アタシ、生徒会──っていうか部活に入れて、何だかんだよかったなって思ってるんです。……だから、センパイには、ちょっとだけ……感謝してます」
「……感謝!?」
「ちょっとだけ!ちょっとだけっすよ!」
顔を真っ赤にして「こんなんす!」と突き出された手の形は親指と人差し指をこれでもかとくっつけたものだったが、衝撃的な話の内容が気になる天華は「わ、わかったから」と低姿勢で受け流し、続きを促した。
「それで?自分で言うのも何だけど、感謝されるような手段は選ばなかったはずよね?」
「……ふっ、何てったって悪役っすからね、センパイは」
「……後悔はしてない、わよ」
「いいんすよ、それで。勝負を仕掛けたのも最後に乗ったのも、アタシなんすから」
「……!」
心が軽くなるとは、こういう気持ちの事を言うのだろう。そう天華は思った。と同時に、咲夜の気概に甘んじてはいけないと改めて肝に銘じる。
「……って話が逸れた、えーと?そう、詳しく聞いたら毎日毎日何かやる訳でもないみたいじゃないすか、生徒会って?」
「ああ。えぇ、そうね」
「だから、案外丁度いいかもなって!それなら適度にお店も手伝えるし、家の人はアタシが部活始めた事喜んでくれたし、係りがある日は委員会の方を優先してもいいって聞きましたし!意外と自由!」
「……そ、そうだけど。忙しい時はしょっちゅう駆り出されるわよ」
「あ、それはそれで全然いいんすよ。暇を持て余すくらいなら忙しさで目を回したい派なので」
そう胸を張って答える咲夜。この時、「暇だったから掃除をしていた」と言っていたあの言葉は、本当にそのままの意味だったのだと何となく悟った。ふむ、伊達にケーキ屋の看板娘はしていないという事か、何とも献身的で微笑ましい。
(ああ……ますます好きになりそう)
胸に手を添える。目を瞑る。妄想する。
例えば疲れて帰宅した時、フリルのエプロンの彼女が笑顔で出迎えてくれるとか、それから優しく抱き締め、心行くまで癒してくれるとか、そんな、甘い、一つ屋根の下───……。
「……おーい……センパイ?聞いてますかぁ?」
「………もちろん」
「はいダウトー。絶対聞いてないっすよね」
「……」
気まずさから話題を変えようと、先程の咲夜の浮かない様子について口を開きかけた───が。
「っていうか!そう!今ので思い出した!何なんすかさっきのリアクション!」
「え?さっきのって……?」
「センパイにドア開けてもらった時っす……!もう、何すかあの顔、目とか輝きすぎでしょ!?」
「え……っ!?」
「あんなんじゃすぐバレますよ!」
いきなりとんでもない事を指摘され、天華は羞恥と驚愕でカァッと耳まで熱くさせられた。顔?目?輝きすぎって……
──そんなに表情に出てた……?
思わず口元を手で隠してしまう。その下では誤魔化しとも苦笑ともニヤけとも取れる口角の歪みが……念の為、詳細は控えるが。
ちなみに咲夜の方は、恥ずかしさと怒りが半々な様子で腕を組み、同じように顔を赤くさせて。
「見てたのアタシしかいなかったから良かったものの……内心めちゃくちゃヒヤヒヤしてたんすからね。お願いっすから、少しは自重してください……てか、もしかして無自覚だったんすか?いやまさかね……」
「……ごめんなさい」
「マジすか」
呆れ顔の咲夜。これじゃどっちが先輩かわからないな……何て事を茹だる頭で考えつつ、天華はこればかりはしっかりと反省した。何せ、これは騒ぎになったら即敗北の一発勝負なのだから……先日のように、自信満々、且つ大胆な手に出た一種の作戦ならまだしも、自分の体たらくで試合終了なんてお粗末な結末になったら目も当てられない。
「ごめん。これからは……ちゃんと気を付けるから」
「そうしてください、アタシの為にも」
「……そうね。気を許すのは、貴女と二人きりの時にだけにするわ」
「……っ! い、いや……それもどうなんすかね……」
「……今思ったんだけど。この会話って、まるで私達──」
「……言わないでください」
「──何だかもう、隠れて付き合ってるみたいじゃない?」
「言わないでくださいってば!全然そんな事ないし!も、もうアタシ帰ります!」
ぷいっと体ごとそっぽを向いて、扉を開けに掛かる咲夜。そこに一筋の勝機を見出した天華は、素早い動きで歩み寄り、背後から───ドン!
「待って」
「うわ!?」
肩越しに扉を抑え、至近距離で動きを封じてやったのだ。言わば、壁ドン(扉ドン?)の、対象が後ろ向きバージョンである。天華は己と彼女との身長差をこれ程有り難く思った事はない。
と、その時、目の前のふわっとしたボブから香る、例のあの甘いフェロモンが、天華の理性をこれでもかと刺激した。あ──マズイ───と思うも、時既に遅し。これまでずっと我慢し続けてきたせいで……
──ぶちっ。
軽々と、解かれてしまった、封印の。
「ねぇ。今、本当は同じ事、考えてたでしょ……?」
「へ……?」
「……“まるで隠れて付き合ってるみたい”だって」
「なっ……!?」
その反動は、もう、言うに耐えない。
「だ、誰がそんな事……っ」
「そ?だったら、そのあからさまな反応は何?……耳、赤いけど?」
「……ゃ、ちょっと……っ、近っ!ダメ、待ってください……っ」
「……まさかとは思うけど、自分の行いを棚に上げて、先輩を注意したって事はないわよね……? ねぇ、瀧本さん……」
「ひっ……な、何で耳元で話すんです、かぁ……は、離れてってば……ん!」
「それとも何?貴女も、私にならそのくらい気を許せるって……? ねぇ、どうなの……教えて、瀧本さん……?」
「ばっ……誰が!そんな訳な───……ひゃっ、待、ちょ、やだぁ……!」
一言で言うと、オーバーヒートしていた天華が。限界まで近付き扉を抑えていた自身の両手を、ピンク色の煩悩の赴くままに、咲夜の華奢な腕や肩へするりと回しかけた──その時。
「いい加減に…………ッちょーしに乗るなあああああ!!!」
その一瞬の間に、ドッカーンと。とうとう、咲夜が爆発した。例えるなら、正しく火山の大噴火である。
優位なシチュエーションと首筋からも漂う甘美な香りと時折聞こえる甘い声に「丁寧な言葉遣いに戻ってる瀧本さん可愛い」とか心底うっとりしていたところへの、突然の必死の抵抗。当然すぐに対応出来るはずもなく、呆気に取られた天華は一気に、背丈、体制、位置の利を無に還してしまった。
ここでようやく我に帰ったが……後悔、先に立たず。色んな意味で「やってしまった……」と滝のような汗を流しても、そんな魔の手(!)から命からがら(!?)脱した咲夜の怒りが治まる訳もなく……。大きく肩で息を整えながら、涙目でギロッと睨み付けられた。
「はぁっ、はぁっ……いや、マジでないわ!センパイ、自分の勝利条件ほんとにわかってます?!はぁ、もう……こ、こんな事して、アタシを振り向かせられると本気で思ってるんすか……!?」
「う、ええと……。そ、そうよね、ごめんなさい………照れてる瀧本さんが可愛すぎて、その……つい?」
「ついて!!そんなんで襲われる身にもなれってんですよ!てか、別に照れてませんしっ!」
いつもはくりっとしていて愛らしい無垢な瞳を限界まで釣り上げて、ガルルと鋭く唸られた。その今にも噛み付かれんばかりのお怒り具合に、さすがの天華も縮こまざるを得ない。元より100:0でこちらが悪いのだし……
「ぁ……あの、本当にごめんなさい、瀧本さん……もうしないから、絶対に」
「知りません」
「た、瀧本さん!」
女神様、完全に激おこである。
と、聞く耳持たずで出て行った咲夜を慌てて追いかけ……はしたのだが、教室を出てすぐの所で思いも寄らぬ人物に目の前を立ち塞がれ、天華はその整った顔立ちを珍しく青ざめさせた。
「……ら、來夢………」
「Hi、天華。忘れ物は見つかりましたか?」
例えるなら、百獣の王•ライオン。カグジョの首領、小鳥遊來夢が、何故かにっこりと笑って立っていたのだ。そしてその背中には、その王に守られるようにして隠れている、羊の皮を着た狼、瀧本咲夜(※ことわざ的な意味ではなく)。
「あ……あぁうん、まあね……それより、どうしてここに……?」
「……そうですねぇ。私も……“忘れ物”した気がしたから……ですかねぇ?」
「…………」
一点の曇りもないスーパースマイル。……バレている。恐らく、何もかも。
ちらっと視線を斜め下にズラすと、澄まし顔でべーっと舌を突き出す咲夜と目が合った。ははあ、出会い頭に來夢を見付けて、すかさず助けを求めたのか……なるほど……さすがは女神………“持っている”。
「それじゃあ、後はお願いしちゃってもいいですか、会長」
「ええ……すみませんね、瀧本さん。また今度、良ければ話を聞かせてください。……さて?天華、何か言い残す事は?」
「…………」
全校生徒の憧れ•竜峰天華。今だけはその栄華も見る影なく、なす術もなく。すっと出戻った教室にて、とりあえず。……尻尾を丸めて正座をしてみた、残念な黒豹なのだった─────………。
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