第25話 泣き落とし

「じゃあ、やります」


 リシェンは早速、【トウトマシン】で副長官を調べてみる。


 この牢屋、防犯上の関係で中に居る間はスキル等を封じる強力な封印が壁や格子に張り巡らされている。


 だが外からのスキル発動には無力で格子の隙間からスキルの力を侵入させることが容易にできるのだ。


「……呪いの他に……体や顔を変形させる術も掛けられてるのか……」


 リシェンの言葉にビクリと反応するキュリス。


「ああ、そうだ。 我々宮廷魔術師でもそれぐらい分かる。 だが、問題はその先――【解呪ディスペル】だ」


「ん~、変化の方は多少強力だけど【解呪】できるみたいですね。 ただ……呪いの方が質が悪い。 キーワードに関する質問に答えたら、俺達を襲ったスプリガンみたいに頭が破裂して死ぬ。 呪いを解こうとしても死ぬ。 あと、頭の中とか心の中を読んだり調べたりしても呪いが発動……って、どんだけ用心深いんだよっ!?」


「それは本当かっ!?」


 証言の立ち会いとして一緒にいたキュロはリシェンに詰め寄る。


「ほ、ホントですって! 間違いありません!」


 詰め寄るキュリスの顔はフードに隠れて良くわからないが、女性特有の仄かに甘い香りが漂ってきてドキリとする。


一方で、一目で分かるほど顔色が真っ青で、ガチガチと歯を鳴らしながら体を震わせる副長官の様子を見たケインは、それが事実であると判断した。


「クソッ! それじゃあ自供を引き出せない!」


「あ、でも俺なら呪いを破壊できるみたいですね」


「”解除できない”って、さっきお前も言っただろうがっ!」


 リシェンが適当でいい加減な事を言っているように思えたキュリスは、リシェンの襟首を絞め、怒鳴りつける。


「のの、呪いを””んじゃなくて、””ですよ! ほらっ! こんな風に……」


 リシェンは【トウトマシン】に命じて呪いの破壊を実行する。

 紫色の鈍い光が少しずつ副長官の体を包み込み,やがてそれが体全体に及ぶ。


「マナの……光? まさか!? 術式に干渉しているのか!! 止めろっ!! そんな事をすれば――」


 光が収まると、そこには容姿が一変した軍務副長官が独房の中に立っていた。


 本来、軍務副長官に掛けられた呪いの解除には複雑で緻密な工程を連続して複数同時に処理していかなければならなかった。

 それは魔術に精通した主神クラスの神ですら困難な作業だ。

 失敗すれば確実に彼の頭は吹き飛び、体は跡形もなく溶けてしまう。


 リシェンは【トウトマシン】により、呪いの原動力を直接マナに分解。

 今まで働いていた術式は原動力が消失して機能を停止。

 呪いの原動力は術式を維持するのにも使われていたが、それが消滅したことで術式を維持することもできなくなり――やがて崩れて消え去った。


「はい、これで呪いを破壊できました! 変化の術も解けて、顔と体も元に戻ったみたいですね!」


「馬鹿な……本当にやってのけるなんて……って、グリーデン長官!?」


 キュリスは【解呪】が不可能だった軍務副長官の呪いが解けたことに驚き、さらに元に戻った副長官の顔を見て二度驚く。


 その顔は軍務副長官の上司――グリーデン軍務長官その人であった。


「ややこし過ぎる!! じゃあ、今の軍務長官は一体誰なんだ!?」


 ケインはグリーデンに話し掛け、彼に化けているのは誰なのか尋ねてみた。


「そんなの儂は知らんっ! 儂は軍務副長官だ! グリーデン長官ではない!」


 だが本人は、自分を軍務副長官と言い張り、今のグリーデン長官については知らぬ存ぜぬと繰り返すばかりだった。


「私が診よう」


 キュリスが痺れを切らし、グリーデン長官を格子越しに魔法を使って検診する。


「……フム、なるほど。 暗示か何かで洗脳されてるようだ。 本人は自分を別人――軍務副長官と認識している」


「リシェン君。 これも解く事できる?」


「う~ん、どうでしょう? 一応、やってはみますけど……」


(……PC《パソコン》の閲覧記録とか調べる要領で出来る、かな?)


 リシェンは【トウトマシン】に命じてグリーデンの記憶を正常に戻せるか試してみる。 


「あれ? 儂…今まで何を……」


「マジで出来たっ!?」


 あっさり記憶を戻すことに成功。

 これにはリシェン本人もビックリだ。


「グリーデン長官、自分の事が分かりますか?」


「ん?……そうだ! 儂は今まで”タンミョウ”に扱き使われていたんだ!」


 それからグリーデン長官は今までの出来事を語り始めた。

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