第22話 楽しいお仕事
「ふおぉぉぉ~~~~~~……話には聞いていたけど、ホントにある……」
「ついさっき、完成したばかりのような感じだな……」
「こんなデカイのは初めてだ……」
「大型も大型――”超”が付く大型の飛船だな」
「しかもこれ、今まで発掘された中で見たことないタイプだわ!!」
遺跡調査団や護衛の騎士達は、地下遺跡で発見された飛船を一目見て、そのあまりの大きさに大口を開けて呆けた。
「ラ、ランスロット…これは……」
「ああ……まさか、これ程のモノとは……。 話には聞いていたが、一隻300mもある飛船なんて想像できなかった……」
「この中からウチに一隻、陛下より下賜されると伯爵が仰られていたが……これだと軍部から横槍が入らんか?」
「確実に入るだろうな。 特に軍務局辺りが文句を言ってくるぞ」
「大丈夫だ。 下賜されるのは既に決定事項だ。 いくら軍部でも、この決定をひっくり返す事は出来ん。 文句を言うだけしか出来ないさ。 それに、ウチに下賜されるのは飛船の修理や整備が専門の”特殊工作艦”という、直接戦闘に関係ない作業船の一種らしい」
ランスロットは大型飛船の一隻――双胴の特殊工作艦を見ながら騎士達に言う。
「だと良いが……」
シュタインベルク伯爵家の騎士達はこんな立派な飛船を、国の軍部が無理やり接収に動かないか心配のようだ。
ちなみに、この特殊工作艦は修理や整備だけでなく補給物資の製造やその補給作業、果ては飛船の建造までもが可能なのである。
ヘリッジ皇国の女皇にこの情報は伝わっているが、彼女自身が意図的に軍部にこの情報を秘匿した。
軍部にこの情報が知れれば、彼らは軍事強化を主張し、軍艦を際限なく量産して一気に軍拡に舵を切るだろう。
そうなれば国庫を逼迫してしまうし、なにより邪神復活騒ぎにより不安定な状況になりつつある周辺諸国に要らぬ刺激を与えてしまい、相手に警戒させるだけでなく、結託してへリッジ皇国に攻め入る口実を与えかねない。
そもそも、ロストテクノロジーで建造された飛船を十全に使いこなせるかは現段階では不明だ。
例え可能だとしても艦数が増えれば艦船の運用に足る人材が圧倒的に不足する。
それでは他の軍事行動や人材の運用に支障をきたす。
ゆえに軍部と切り離すために褒美という口実でシュタインベルク伯爵家に下賜するのだ。
あと、シュタインベルク領には農業以外にこれといった産業がない。
これを機に娘の領地が栄えれば――という、親心も含まれていた。
ちなみに、残る二隻は潜水が可能な戦艦と母艦である。
「入るかい?」
レジが意地悪そうにニヤリと口角を上げ、ヘリッジ皇国所属の近衛騎士――補給・輸送担当であるケインに問いかける。
ケインは飛船のあまりの大きさに呆気にとられながらもレジに答える。
「これは……正直、ホントにギリギリですね。 他の発掘品は、この中に入れるしかないですよ」
レジはケインの発言に目を見開いて驚く。
アイテムストレージの容量が大きいとは聞いていたが、まさか全長300mの飛船が三隻も入るなんて驚きを隠せない。
(これだけの大物が入るなんて……アイテムストレージの上位版ってだけじゃあ説明がつかない。 恐らく、アイテムストレージとは別の特殊スキルだね……)
「そういえば発掘品って、どれくらいあるんです?」
「ええっと……それはリシェンに聞かないと分んないわ。 リシェン! ちょっと来な!」
「なに?」
「発掘品て、どんくらいあンの?」
「ちょっと待って。 今、前に調べた時の地図とメモ出すから」
リシェンは背負っていた背嚢を下ろし、中から以前、この遺跡の地下を特殊スキル【トウトマシン】で調べ、その詳細な地図をA4サイズの紙に数枚に分けて写していた。
「はい、これだよ。 一応、どんなものがどれくらいあるか、おおよそでメモ書きしてる」
「うわっ!? こんなトコにもあったんだ!!」
「それに、こことそにも!!」
「ここ程じゃないけど、近くにまだ大きな空間があるね」
「こんなに残っていたなんて……」
「仕方ないよ。 地下遺跡に埋まっているものなんて、普通探しようがないから」
リシェンが特殊スキル【トウトマシン】で紙上に描いた地図に発掘隊の面々は驚く。
レジは彼等、発掘調査隊や護衛騎士隊にリシェンの特殊スキルについては”道具や騎甲に関するもの”とぼかした。
さすがにこれだけの能力を発揮しているのだ。
特殊スキルとバレるなら最初から宣言したほうがいい。
特殊スキルというものは本来、他人に知られるのは避けたほうが良い。
特殊スキルは驚異的な力を発揮するものがほとんどだ。
もし情報が漏れた場合、よからぬ輩に目を付けられる可能性もある。
スキルについてあまり知られたくない場合には、スキルの内容をぼかして相手に伝えるのはごく一般的な手法だ。
ただし、少なくはあるが、スキルを隠す事が法律に違反する国もあるので、その点には注意する必要がある。
「ほらほらっ! 楽しいお仕事の時間だ! 先ずは、飛船のコンディションを調べる。 それが終われば、次にこの飛船が残っていたこの場所を調べるぞ!」
ヘリッジ皇国に所属する、国立研究所の発掘隊・団長のラインが激を飛ばし、隊員達に指示を出す。
ラインは二百歳を超える初老のリトラー《小人族》だ。
発掘調査に関しては百年以上の経験を持つベテランでもある。
そして今回、ラインには遺跡調査以外に別の仕事をヘリッジ皇国の女皇陛下から依頼されていた。
”リシェンの能力の見極め――もし、国の組織内でもやっていけるほど有能な人材であるなら、可能なら引き抜きを”――というものだ。
「すまないがリシェン君、ここにある物の解説をお願いできるかい? 君が分かる限りでいいよ」
「分かりました。 でも中には壊れてよく分からない物もあるんで、それは俺の想像になりますよ?」
「かまわないさ。 こういった古代の遺跡で発掘される物なんかは、ほとんど壊れているものばかりさ。 でも我々は、その壊れた物の痕跡から、それにどういった技術か使われていたか調べるのもまた仕事だからね」
リシェンに向かって朗らかに笑いかけるライン。
だが彼のその表情は、リシェンの説明を聞くたびに徐々に真剣なものへと変わっていった。
☆
「――という風に、この動力機は二つの物質を連鎖反応させてマナを発生させ、それを源動力にしていたんだと思うんです。 肝心の物質は消失してますけど、多分この動力機に使われていた物質は、あそこにある飛船の動力機に使われているものと同じだと思います」
リシェンの説明は的確で、時にはこの遺跡に残っている道具を正しく使ってみせたりもした。
壊れた動力機の説明を受けた時には鳥肌が立った。
「……」
(なんて事だ……彼の仮説は研究者達と同等――いや、それ以上だ!! しかも、それを証明するための現物があの飛船の中にある!! 彼は私や陛下が想像した以上の有能な人材かも知れない!!!!)
(……不味いな。 ラインさんの反応が良くない。 【トウトマシン】を使って調べた情報を喋り過ぎたかな?)
ラインの心中を知らないリシェンは、彼の険しい表情に自分が調子に乗り過ぎて、何か気分を害したかと心配になる。
だが、ラインは少しの間、顎に手を当てて何やら考えただけで、すぐに元の穏やかな眼に戻る。
「いや、ありがとう。 君の解説はとても分かり易くてためになる。 君の説明の通りだと私も思う。 我が国や他国の研究者達の報告も、概ね君と同じ意見だ」
「そうですか」
自分の心配が杞憂だったとホッと胸を撫で下ろすリシェン。
そこでラインの部下であるリトラーの女性が報告に来る。
「団長~! 飛船三隻のコンディションのチェック、完了しました! 凄いですよ! 動力が生きてる上に今すぐ動かせる状態です! 兵装も使用可能みたいですね! ……ただ、ここで実際に使うわけにはいかないので、あとで安全な場所で確認する必要がありますが」
「そうか、ご苦労さま。 じゃあ次は、この近くにある空間の調査だな。 リシェン君、引き続き協力を頼む」
「分かりました」
☆
「ちょっと、ここで待っていて下さい」
暗闇の中、ランタンを持つリシェンを先頭に、ラインを含む調査員達は調査対象である空間に向かっていた。
所々に崩れた柱や天井などの建材が通路に落ちていたり、土砂で壊された壁などの構造物が伺える。
古代人が作り利用していたかつての建造物は、今ではダンジョンと化していた。
調査対象である空間の手前に辿り着くと、リシェンは足を止める。
「どうした? 何かあるのかい?」
「ここから先は俺も行ったことがないので、俺が先に安全を確認して来ます」
「私も行――」
「ここで待ってて下さい」
”行こう”と言い掛けて、リシェンに
「駄目だ。 君一人危険かもしれない場所に行かせるわけには――」
「俺は元傭兵の義母・レジから危険に対処する手解きを受けてますから。 大丈夫です」
「それでも君だけ行かせるわけには――」
「ここで待ってて下さい」
「いや、しかし……」
「ここで待ってて下さい」
「……」
リシェンはライン達に対してにこやかに対応するが、断れない雰囲気と有無を言わさぬ凄みを出している。
(【トウトマシン】で穴を開けて補強する所を見られたくないからな。 ラインさん達にはここで待っててもらわないと)
「……分かった。 君がそこまで言うなら。 しかし、何か異変があればすぐに戻るんだよ」
「分かってます。 じゃあ、ちょっと行ってきますね」
そう言うと、リシェンはランタンを持って一人先に進む。
「珍しいですね。 隊長が止めないなんて」
「一人で行かせるわけないだろ。 気づかれないよう、後を追うんだ。 私が先に行く。 彼は”国崩しのレジ”の弟子でもある。 気配にも
「やっぱりそうですよね~。 了解です」
ラインは【隠形】と【気配察知】のスキルを持つ。
このスキルを持つお陰で、魔獣や盗賊などの襲撃から危険を回避してきたのだ。
今ではプロの暗殺者ですら、ラインが堂々と正面から横切ってみせても彼の姿を認識することができない程だ。
レジに鍛えられたとは言え、さすがにこのレベルになると、リシェンでは気配を察知することは難しい。
ラインはリシェンに気づかれず、密かに跡を付ける。
(ん? 止まった。 先は……行き止まりのようだ)
リシェンが土砂で埋もれてしまった通路で佇んでいると、土砂が淡く鈍色の紫の光を放ち始める。
それと同時に土砂が次々と光の粒子となって消えていき、通路が建物と同じ材質の石壁――コンクリートで補強されていく。
(なっ、なん……だとっ!? あれはマナの光!! あれが道具や騎甲に関するスキルだというのか!! とてもそうは見えないぞ!! となると……彼の所持するのは特殊系のスキルか……)
穴を開けて通路を繋ぎ、それを補強し終わると通路の先の空間を確認するためにリシェンは中へと進んで行く。
☆
「やっぱり……ここにあったのは艦載機だったか。 空母があったからもしかしたらと思っていたけど。 しかも、戦車やヘリ……いや、オートジャイロってヤツか――まである。 ここは艦載機みたいな航空機や戦車を組み立てる工場だったのかな?」
以前、この遺跡に訪れた時は、【トウトマシン】で大雑把に調べたので大量にあった艦載機の存在は確認していたが、数の少なかった戦車やオートジャイロまでは確認できなかった。
リシェンは【トウトマシン】を使って片っ端から調べ、その構造を記憶させていく。
「戦車四輌にオートジャイロは一機。 艦載機は六十機。 どれもコンディションは良く、ホコリは被ってるけど壊れてない。 戦車は小型で、車体の後ろに砲塔が載ってて、二連装砲塔で水上走行が可能……艦載機は【震電】と………確か【
神龍――日本ではほとんど知られていないが、機首内部に徹甲弾を内蔵したロケットエンジンを推進力とし、それを人間が誘導装置の代わりに操作して、戦車や上陸用舟艇に体当りする特攻機の一つである。
震電とは違い、木製の骨格に布を貼り付けた簡素なもので、着陸・突撃時に火薬ロケット三基を推進力として使用し、それ以外は滑空して飛行する。
垂直尾翼は震電が主翼に一枚ずつ――計二枚に対して、神龍は胴体後方に一枚である。
目の前にある艦載機はカナード翼で垂直尾翼が胴体のエンジン直上に一枚。
エンジンはマナを吸引してそれを推力に変換するマナ式エンジン。
「う~ん……どれも義父さんから教えてもらってない技術が満載だ。 ロストテクノロジーってヤツか? にしても、古代の技術は現代の地球と同等、一部(立体ディスプレイやそれ対応のカメラ等)はそれ以上だもんな……」
一応、危険がないか調べてみるが、この空間に生きて存在しているのはリシェンだけ。
防犯カメラや見た目がロボットのような見た目の小型ゴーレムといった防犯システムがあった形跡はあるが、既に全滅している。
「ゲームの中に登場する落とし穴や天井が落ちてくる罠なんてものもないし、建築物の構造体が脆くなってる部分はあるけど、崩落する危険はなさそうだ……。 安全も確認できたし、ラインさん達の所に戻ろう」
そう思った矢先――ここの空間を繋いだ通路付近に、展開させていた【トウトマシン】が反応した。
「誰だっ!?」
【トウトマシン】が反応した場所にランタンをかざす。
そこに居たのは、ここから離れた場所で待たせていたはずのラインであった。
「……リシェン君、私だ(まさか、気付かれるとは……)」
「ラインさん……待ってて下さいって言ったのに……(【トウトマシン】を使ってるとこ見られたか?)」
「すまない。 やはり君の事が心配でね。 跡を付けさせてもらった。 しかし、これは一体(ここは話をはぐらかしたほうがいいだろ)……」
ラインはリシェンから話を逸らすため、近くにあった艦載機を視線で指し示す。
リシェンもそれに乗っかる形で艦載機の説明をする。
「……多分、母艦――角張ってて、中に広い空間を持つ飛船の方に搭載する兵器のようですね。 長距離をあの飛船で運び、目的地に到着したら、これに乗り込んで飛船から飛び出し、飛行して目標まで近付いて攻撃する――」
「これが何か解るのか!? しかも、これが飛船のように空を飛ぶと!?」
飛船以外に空を飛ぶ乗り物が存在するとは思わず、新たな航空機の発見に思わず声を荒げるライン。
「……だと、思います」
「これが空を……それも、君のスキルで解かったのかい?」
「そんなところです」
「隊長ー!! 大きな声出して、何かあったんですかー!?」
ラインの後ろから離れて付いて来た調査隊の隊員達が、ラインの大声に反応して急いでこちらに向かって来る。
「おっと、私の大声で何かあったと勘違いさせたようだ。 合流して皆を安心させよう、リシェン君」
「はい」
☆
艦載機やジャイロコプター、戦車の発見に隊員達は大いに盛り上がり興奮した様子だったが、時間がもう遅いということもあり、今日のところは夕食を摂った後はゆっくり休み、遺物の調査や回収作業は明日以降とした。
ちなみに、レジとボロ、バッシュの三人は、ボロが建造途中の飛船の中で何かをずっと話し合っていた。
ランスロット達は一通り飛船を見た後、見回る場所や役割分担を決めるとランスロットの指示の下、各自配置に付いた。
『うまうま~!!』
今日の夕食は、昼食と同じく昨日の残りを使った物。
昼食は猪肉のハムと薄切りにしたチーズ、葉物野菜にドレッシングを少し掛けて挟んだバケットサンド。
夕食は、熟成させた猪肉を自家製味噌から絞った醤油をベースに作った焼き肉のタレを掛けて焼いて、それを小麦粉と水で練り、平にしてフライパンで焼いたナンのような薄いパンに挟んだものと同じく醤油ベースで味付けした野菜スープだ。
「いつも味気ない保存食だから特に!」
「干し肉や保存の効く物に塩水を煮立せた鍋にぶっ込むだけだもんな……」
「このショウユって調味料、何にでも合う!」
「リシェン君、すまないね。 我々の食事の用意までしてもらって」
「いえいえ、これも仕事のウチですから。 それに料理を作るのは好きですからね」
「そうか。 そう言ってもらえると助かる。 ……しかし、リシェン君の能力は驚くべきものだね。 リシェン君、どうだろう? 君さえ良ければ、ヘリッジ皇国の国立研究所に所属して、今後も我々に協力してくれないか」
ラインはここぞとばかりに研究所への勧誘話を始めた。
「ほう、引き抜きか! 坊主、あそこなら最先端の技術が学べるぞ!」
「ああ、騎甲に関しての研究もしてるからなあ! 為になるはずだあ!」
バッシュやボロは感嘆の声を上げる。
この国の政府が運営する国立研究所は古代の発掘された技術をリバース・エンジニアリングしたり、最新の技術を取り入れたりと、そこで学び働ける事は職人の憧れだ。
――だが、リシェンの答えは皆が想像するものとは正反対だった。
「……すみません、辞退させて下さい」
「えっ!? なんで!? 折角のいい話なのに!!」
「そうだぞおぅ……。 お前なら、修行の合間に研究所の仕事もこなせるだろうにぃ……」
普通は別の仕事との掛け持ちなんぞ早々に出来るものではないが、これに限って言えばリシェンの持つ特殊スキル【トウトマシン】があれば可能である。
しかし――
「……ごめん、義父さん義母さん………でも、俺は……そういう所で働く気はないんだ」
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