第13話 アーティファクト
「まあ、見つかったものは仕方ない! リシェン! 他に見落とした場所やモノがないか調べてくれぃ!」
ケロッとしてすぐに立ち直るボロ。
「アンタのそういう切り替えの速さ、感心するわ……」
「ガハハ! 褒めるなよぉ~!」
「褒めてないって」
リシェンは【トウトマシン】でこの空間を重点的に他の場所も調べ尽くす。
目に見える大きい物はともかく、分かり難い物、目に見えない物もあるはず。
やはり、と言うべきか、予想通り出てきた。
この施設で使われていたと思しき、スキャナーやアナライズと言った機器、それと連動したA4サイズのタブレット型のPCの様な端末、それら情報のやり取りを記憶し、取りまとめるサーバの様な物がある部屋まで。
他にも様々な物が。
機器などに使われている素材は上質な物で、耐久年数を裕に超えても経年劣化を抑え、さらに長い間、土砂で埋もれて空間が密閉されていたお陰か損傷も少なく、また冒険者や探索者に踏み荒らされ、持ち去られる事を防げたので手付かずで残っていた。
さすがに、この造船所の設備の動力は死んでいたが。
あとは、フォークリフトの様な重量物を運搬したり作業したりする、騎甲の様な仕組みで金属製のパイプで出来ている
それら古代遺跡などから発見・発掘された高度な技術で作られた品々はまとめてアーティファクトと呼ばれている。
過去の冒険者達やボロ達の様な調査隊に調べ尽くされた後だというのに、これらアーティファクトの大量出土は久々の大発見だ。
リシェンは発見した古代の騎甲飛船とこれらの品々を【トウトマシン】で解析、学習、記憶させていつでも再現と改良が可能な様に下準備した。
「ところでアンタ。 この飛船、一隻くらい頂戴するの?」
「いや、三隻全部シュタインベルク伯爵に渡す。 あと、ここで発見した全てのアーティファクトもなあ。 でないと、伯爵はともかく、他の貴族共が煩い。 そうしたら周りも黙るし、貸しが作れて一石二鳥だろう? それに、リシェンがいるならいつでも作り出せる。 リシェンなら再現だけじゃなく、改良も出来るしなあ! さすがに、自分達が作った物まで寄越せとは言うまいよぉ!」
「アナのために気を使ってくれたんだね……。 ありがとね、アンタ」
「ガハハ、いいって事よぉ! レジの大事な友達なんだし、それに遺跡を調べさせてもらうのに、レジに管理人て言う立場も用意してくれたしな! これくらい当然だあ!」
「帰ったら早速、手紙を書いて知らせなくちゃね。 これは久々の大発見だから、あの娘も喜ぶわ!」
レジが嬉しそうにボロに話す。
ボロ知はっている。
レジにとってアナスタシヤ・シュタインベルクと言う人物は掛け替えのない大親友である事を。
この大発見は、この国の貴族であるシュタインベルク伯爵にとって、大事な交渉事などに必ず役立つだろう。
それに今回のこの大発見は、軍事大国ミリタリアやインキュバスとサードアイ《三つ目族》のハーフである魔王の国などの驚異に晒されているヘリッジ皇国にとっても明るいニュースだ。
そこでボロがはたと気が付く。
リシェンに付いてとある重要な事を思い出したのだ。
「そう言えばリシェン。 お前、婚約者が居るんだろう? ちゃあんと連絡は取ってるンかぁ? 今こうして、無事に過ごしている事を知らせておかないと、その娘、心配してるんじゃあないかあ?」
ボロが知る限り、リシェンは自分たちの下に来てから誰かに連絡を取っている様な形跡はない。
気になったのでリシェンに聞いてみたのだが。
そのボロの指摘に――
ピシッ!
そんな擬音と共にリシェンの動きがピタリと止まった。
「どうして、それを……?」
錆び付いた機械の様な動きでボロに顔を向けるリシェン。
「お前が見せたスキルカードに載っておったぞお。 まあもっとも、スキルカードに刻まれる内容は大まかなんで詳細は載らないんだがなあ」
リシェンはレイニィの事を片時も忘れた事はなかった。
しかし、どうしてもあの光景が――レイニィが村長のギゲロと裸で抱き合い、体を重ねている姿が頭を過る。
レイニィはギゲロと、どうしてあんな事をしていたのか?
自分の気持ちを受け入れてくれたのではなかったのか?
それとも自分は、レイニィに玩具の如く、心を弄ばれてたのか?
その度に暗い感情の渦に飲まれ、答えの出ない袋小路に陥ってしまう。
なので、考える事をすぐに放棄する。
でないと、自分の心が壊れて狂ってしまいそうになるから。
そんな事を延々と繰り返しているうちに、いつの間にか半年と言う時間が過ぎてしまったのだ。
だがしかし、ボロの発言が切っ掛けとなり、それがもとでレジに厳しく追求され、リシェンは仕方なく事の次第を二人に話した。
自分がファーレシアに来た時、レイニィの世話になった事。
それから彼女に愛情を持つようになり、告白してプロポーズした事。
その彼女が自分の部屋で村長のギゲロと裸で抱き合い、体を重ねていた事。
そして、その出来事が切っ掛けで嵐の中飛び出し、増水した川に落ち、そのまま流されてボロに拾われた事を。
「辛かったなあ、リシェン……」
リシェンために涙を流すボロ。
「その娘、絶対に許せないわ!」
対して、レジはレイニィに怒りを覚える。
「私が一緒についてって、そのレイニィと言う娘をとっちめてやるよ!」
「まあ待て、レジ。 リシェン、先ずは一度、村に帰ってその娘の話を良ぉく聞くんだ。 もしかしたら何か事情があって、そうせざるおえなかったかもしれん。 行動すんのはそれからでも遅くはねぇ。 ただ感情に流されるままに行動して、後で取り返しのつかない後悔をする――それだけは、しちゃあなんねぇぞぉ」
「……そうだね、アンタの言う通りだよ。 アンタのそういうところ、アタシ好きだよ」
「ガハハ! 惚れ直したかあ?」
「惚れてないと、一緒になんかなんないわよ……」
「レジ……」
「アンタ……」
そのまま二人の間にラブシーンフィールドが展開されそうになるが。
「んんっ!」
それをリシェンが咳払いで止める。
「うおっとお! いけねぇ、いけねぇ! レジ、続きは家に帰ってからだあ!」
「そ、そうだね、アンタ! リシェン、ここの場所は全部調べ終わったの?」
「この飛船の造船所跡や付近一帯は調べ終わったよ。 でも、この遺跡、結構広いから一日じゃあ終わらないよ?」
「これ以上、アーティファクト見つけても俺達だけじゃあ回収に手が足りん。 他にもこういった遺跡が埋もれちまった場所があるかもしれん。 リシェン、今日はある程度調べて、何かあったらその位置だけ把握しておくとしよう。
「分かったよ、義父さん」
「レジ、次いでに人の手配も頼むよう伯爵への手紙に書いといてくれねえかぁ?」
「分かった。 後、送ってくる人材の条件は身元が確かで口が堅い奴だね。 でないと、情報を嗅ぎつけてお宝をブン取ろうって輩が必ず出てくるから」
「その辺はレジに任せる」
「あいよ」
それからリシェン達はこの遺跡の全体像をリシェンの特殊スキル【トウトマシン】で大まかに調べ上げ、地中に埋もれてしまっている遺跡や空間の位置マップを作成。
その日の作業を終え、次の日の早朝に自分達の家に帰宅した。
レジは帰宅して早速、親友であるシュタインベルク伯爵に手紙を
こうした郵便物のやりとりは商業ギルドに依頼するのが一般的だ。
冒険者ギルドに依頼するという手もあるのだが、急ぎの場合には確実にすぐ届く半面、人件費や必要経費やらで割高になり、依頼を引き受けた冒険者によっては手紙を覗き見する不届きな輩も存在した。
なので今回の場合、レジはより安全で信頼性が高い商業ギルドに依頼する事にした。
こうして伯爵に連絡するという目的はすぐに果たされるだろう。
問題はリシェンの方である。
婚約者であるレイニィとの間にある問題に決着をつけさせるため、ボロとレジはリシェンにレイニィのいる教会へ戻るよう促す。
しかしリシェンは何だかんだと理由を付けてレイニィの下へ戻る事を渋る。
だが最終的にレジの――
「男らしく腹を括りなさい!」
と言う言葉と共に、心の込もった熱い激励(という名の拳骨)をされて、レイニィのいるティカ村に帰る決心をした。
遺跡調査から帰宅して三日後の朝、ボロとレジの工房兼自宅の前ではティカ村に戻るリシェンの姿があった。
必要な旅食や水筒、教会の子供達へのお土産はスキルカードのストレージに入れてあるので身軽な格好の旅姿だ。
「それじゃあ行ってくるよ義父さん、義母さん」
「行ってらっしゃい! しっかりやりな!」
「くれぐれも冷静になぁ」
「うん」
頭に出来た大きなタンコブをさすりながら、リシェンはティカ村に向かって歩き出す。
そのリシェンの後姿を見送るボロとレジ。
「あの子、ちゃんと帰って来るかな?」
「アイツはもう俺らの息子だあ。 必ず帰ってくる」
(リシェン、帰って来なかったらどうしよう……)
レジに格好つけて言ってはみたものの、内心はドキドキのボロであった。
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