第12話 古代の騎甲飛船
あれから”猛毒の大沼”を目印に西へしばらく歩き続ける。
その道中、魔獣が時折襲って来たが、リシェンとレジが対処し、問題なく撃退した。
ボロは倒した魔獣の解体をリシェンに見せながら説明する。
最後に魔獣の生命とマナの源である魔石を引き抜くと、魔獣は灰紫色のマナの粒子となり跡形もなく消滅した。
「いいかあ?、リシェン。 魔獣ちゅうのはなぁ、魔石を壊されたり抜かれると立ち所に消えちまう。 魔獣共から素材を剥ぎ取る時は、必ず魔石を最後に抜けよぉ」
ボロはリシェンに陽に当たり光り輝く灰紫色の魔石を見せながら自分のスキルカードのアイテムストレージに仕舞う。
リシェンはボロの説明に頷きながら、頭の中に浮かんだ疑問をボロに質問する。
「どうして魔獣は魔石を抜かれると消えるの?」
「ん~、偉い学者達が色んな説を唱えとるが、魔石は魔獣にとって俺達のスキルカードに当たるらしい。 だが、俺達人が持つスキルカードと違って魔獣の魔石は魂や心だけでなく、存在を世界に証明するためのもので、だから魔石が無くなると、魔獣はこの世界に己の存在を証明出来なくなり消えるそうな」
「じゃあ、何で剥ぎ取った魔獣の素材は消えないの?」
「それも諸説あるが、一度魔獣から切り離された組織は、この世界のマナと同化して存在が確保できる――とからしい。 まあ、要はな~んも分かっとらんだけだがのぉ。 ガハハ!」
「ふ~ん、不思議だね」
「まあ、あるもんは利用出来れば利用すればいい。 それが俺達職人だ。 それより、もうすぐ着くぞお! 楽しみにしておけ、リシェン!」
「うん!」
その後、ようやく古代遺跡に到着した一行。
一旦休憩を兼ねて見晴らしの良い場所で昼食を摂るために手作り弁当を広げる三人。
作ったのはバケットサンド。
レジがパンを焼き、リシェンが具を作って挟んだ二人の合作である。
リシェンはバケットサンド片手に口一杯頬張りながら遺跡を見回す。
「物とか散乱してるのかと思ってたけど、建物の土台とかが残ってるだけで以外にスッキリしてるね」
「そりゃおめぇ、神話時代から野晒の上に、目ぼしいもんは冒険者共がせっせっと持ち出したんだあ。 それこそ、地面の上に落ちてんのは何でもなあ」
「それじゃあ、もしかして地中に?」
「おうよ! それに気付いて地面を掘り返そうとした奴はいたが、そんときゃあ既にシュタインベルク伯爵の所領になってて、許可無しに勝手に掘り返すのが出来なくなってたんだぁ。 それでもそんな奴は後を絶たないんで伯爵と窮地の仲だったレジが委託って形で管理を任されたんだあ」
「へえ~、でもこんな広い場所をたった二人で管理するのって大変なんじゃない?」
「まあ、最初はね。 私が追い払っている内にそいつらも諦めたよ」
「クククッ! そりゃ、”国崩し”を相手取ろうなんて輩は誰も居いないさぁ!」
「ちょとアンタ! リシェンに余計な事吹き込むんじゃないよ! でないと、この先ずっと禁酒する事になるよ!」
レジは顔を真赤にしてボロを怒鳴る。
「ゲッ!? それは勘弁!」
レジが必死に何かを隠そうとしている。
リシェンはそれについて予測し、思い付いた事を口にする。
「”国崩し”って、何? もしかして義母さんの二つ――」
「その先を言うと鍛錬を今の三倍キツくするよ?」
レジの顔は穏やかな微笑みを浮かべている。
しかし、レジのその瞳からはハイライトが消え失せ、それはまるでこの世の全ての希望が消え去ったかの様な錯覚に陥らせる。
リシェンはレジのその様子に恐怖し、縮こまった。
「さ、さあ! もう休憩は終わりにして仕事しようよ、義父さん!」
「おお! そうだな義息子よぉ!」
二人はそそくさと後片付けをすると、レジから逃げる様に遺跡の中に向かって行った。
「全く、この二人は……」
二人のその行動に呆れるレジであった。
☆
ボロが先頭を歩き、遺跡の地下への入口にリシェンを案内する。
「俺が六年前に見つけた時は、通路が崩れて狭まっていたんだが、掘り起こして通路を拡張したんだぁ。 んで、入り口に扉を設けて俺とレジ以外は入れないようにしてある。 念の為に入り口には目眩ましの魔道具を設置して扉を隠してあるんだぁ」
目的地に到着すると、ボロは付近にある崩壊した壁の隙間に手を突っ込み、目眩ましの魔道具のスイッチを切る。
すると、地面に灰色の石のブロックで出来た大きな扉が現れた。
ボロはその扉にスキルカードから取り出した赤金色の鍵を当てると石のブロックはまるで組木細工の様に組み替えられて地下への入り口を顕にする。
同時に壁の両側面に取り付けられた光を灯す魔道具が入り口から順に暗闇を照らし出す。
再びボロを先頭に地下へと降りる階段へ足を踏み入れた。
「レジ、扉を閉じてくれぃ」
「はいよ」
レジは壁に取り付けられているスイッチを押すと、石のブロックが石の扉を組み上げていく。
どうやら、中から扉を締めたら、壁に仕込んである光の魔道具は消えない様だ。
階段を下へ下って行く。
途中、幾つかの扉があったが、それらは全て無視した。
ボロの話ではそれらは全て調べ尽くしたらしい。
階段を降り始めて十分ほど。
ようやく目的の最下層に到着した。
入り口には扉は無く、広大な空間を光の魔道具が照らし出している。
その中に異様な大きさを誇る横長の物体が鎮座していた。
どうやらここは、騎甲飛船の建造や修理を行うドッグの様だ。
「これが古代に建造された空飛ぶ船……騎甲飛船……」
「おう! コレが俺が見つけた取って置きのお宝よぅ! 壊れた古代飛船をここまで復元すんのは苦労したぜえ!」
ボロの話ではここに何隻かあった飛船の部品や装甲を一番状態の良い飛船に使い組み上げたらしい。
「リシェンには、俺ではどうしても復元出来んかった操縦部分や動力部分を復元してもらいてぇんだあ!」
「分かった。 【トウトマシン】で調べてみるよ」
リシェンは早速、【トウトマシン】を使い、古代の騎甲飛船を調べ上げる。
同時に周囲にも【トウトマシン】をバラ撒く。
しかし、いくら【トウトマシン】で飛船を調べてもそれらしい部品は見つからない。
いかに優れた特殊スキル【トウトマシン】でもさすがに無い物は再現しようがない。
「……ごめん、義父さん、無理みたいだ」
「そうか……」
ガックリ項垂れるボロ。
(ん?)
その時、周囲に放っていた【トウトマシン】から反応が返って来た。
(えっ!? コレって……間違いない! しかも状態はここにあるのよりかなり良い!)
リシェンはボロを喜ばせ様とその飛船の状態を【トウトマシン】で隈なく調べた。
ボロが望んでいた操縦系統や動力部分も完全で、他の部分の仕組みも生き残っていた。
だがここでリシェンはある事に気付く。
それはボロが見つけた古代の飛船を長年苦労して復元した事を。
なのに別の場所に完全な飛船があると分かれば、その精神的ダメージはいかばかりかのものか。
(言い難い……ていうか、言えない……)
ボロがリシェンに語った自分の夢。
自分が遺跡で見つけた古代の騎甲飛船を復元して、いつか空を自由に飛び回る事を。
だが、その壊れた飛船をせっせっと修復・復元作業をしているすぐ隣には新品同然の飛船が眠っていた。
ボロの苦労は一体何だったのか?
それを知ったらボロはきっとショックを受けるだろう。
ボロのその心情を慮ってリシェンは気不味そうにボロから顔を逸らした。
だが、そのリシェンの仕草に鋭く気づくレジ。
レジはリシェンのその様子を疑問に思い尋ねた。
「どうしたの? 何か分かったの?」
レジに気付かれてしまえば言わないわけにいかない。
どうせいつかはバレる事。
覚悟を決めて二人に【トウトマシン】で判明した調査結果を話す。
「義父さん、非常に言い難いんだけど……」
「どうしたんだ、リシェン? 何か拙い事でもあンのかぁ?」
「すぐ隣に……あるんだ、飛船が。 しかも、完全な状態で今すぐにでも動かせるヤツが」
「「な、何だってえーーー!!!!」」
驚愕するボロ。
ボロと同じ様に驚くレジ。
彼女も飛船の修復作業をボロに無理やり手伝わされていたのだ。
しなくていい苦労をさせられて、ボロを殴りたくなる衝動を必死で抑えるレジ。
(今はボロの方がショックが大きいはず。 だから今は我慢しよう。 でも、後で一発ブン殴る!)
リシェンはこのドッグの奥の方を空間を指察した。
そこは天井の亀裂から土砂が流れ込み崩落した場所だ。
「この先にも何かあると思って掘り返してみたが、掘っても掘っても天井から土砂が降って来るから諦めたんだぁ。 どうせ掘り返しても土砂の重みで潰れてるだろうしと思ってよぉ……」
「簡単に諦めないでよぉ! アンタならどうにか出来たでしょうがぁ!」
「レジが”面倒くさい!”言うから諦めたんだろうがあ!」
リシェンは言い合いの喧嘩をしている二人を他所に【トウトマシン】の能力――”万物をマナに分解、レイラインに還元する能力”を使って土砂をマナに換えて消してゆく。
しかし、土砂が天井から際限なく降ってきてキリがない。
そこで、【トウトマシン】で床材や壁材を学習させ、天井部分に出来た亀裂の穴にそれらを再現して塞いでみた。
再び土砂で出来た壁を【トウトマシン】で消してゆく。
今度こそ上手く行き、土砂で築かれていた壁を消滅させる事に成功した。
そこには確かにリシェンが言う通り、古代に建造された騎甲飛船が完全な形で残っていた。
しかも、三隻も。
「俺の苦労は何だったんだあ……」
ボロは膝から崩れ落ちた。
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