第11話 古代神話の残滓

 翌日、リシェン達は自宅から半日の所にある古代遺跡に向かった。


 ここは、”ヘリッジ皇国”のシュタインベルク伯爵領に位置する。


 リシェンが住んでいるボロとレジの工房兼自宅は、街からかなり距離の離れた森の中にあるのだが、当然そんな場所には野獣や魔獣等の危険がつきまとう。


 だが工房兼自宅の周囲には野獣や魔獣の侵入を防ぐボロ特製の魔道具が設置されているので、余程の高位ランクの魔獣が出現しなければ安全は十分確保できている。

 

 リシェンが以前、住んでいた教会があるティカ村は、軍事大国で知られる”ミリタリア王国”に属していた。


 国教は軍神を主神とする宗教を信仰しており、ミリタリア王国の国内においてはメジャーで一番の勢力と規模を誇る。


 レイニィが属する豊穣を司る女神・ノンナを奉る教会は二番目に大きいのだが、国教に比べるとやはり見劣りしてしまう。


 ヘリッジ皇国とミリタリア王国は急峻な山々と鬱蒼と生える広大な森の木々隔てられた隣国同士なのだ。


 レジはヘリッジ皇国に属する貴族、シュタインベルク伯爵とは旧知の仲であり、伯爵からの依頼で今は遺跡の管理と調査を任されていた。

 その代り、報酬として遺跡から発掘した品々の中で、自分達が欲しい物の所持を許可してもらった。


 ――とは言っても、レジやボロにとって欲しい物は余りない。


 発掘した品々のほとんどは、報酬と引き換えにシュタインベルク伯爵に提出し収めていた。

 ただし、ボロがこだわった古代の神話時代に建造されたと思われる空飛ぶ騎甲の船――騎甲飛船とレジが見つけた大剣以外は――と、付け加える必要はあるが。


「リシェンには、これから俺と一緒に遺跡の調査、発掘と俺が見つけた古代飛船の復元作業を俺と一緒に熟してもらう」


「前々から話には聞いてたけど、その遺跡で発見したのって飛船だけ? 騎甲鎧とか無いの?」


「あるにはあったが、騎甲鎧はゴーレムに近くて今の人が乗り込む方式じゃなく、傀儡の様に外から人が操ってたみたいだし、騎甲馬車はボロボロで原型がほとんど分からん。 まあ、精々が国の研究機関に引き渡すかインゴットにして商人に売っぱらうしか価値がないわな」


「その他の武器類や装飾品なんかは全部伯爵であるアナスタシヤに渡して、報酬としてお金を貰ってるからね。 遺跡で見つけた物を頂戴したのは、私が一目見て気に入ったコイツ一本と――」


 そう言ってレジは背中の大剣をリシェンに見せる。


「んで、ボロはボロボロの飛船ってわけ。 ……洒落じゃないからね」


 ちょっと寒い風が吹いた気がしなくもないが、それは気の所為として。


「見えて来た! が目的地の目印だあ!」


 ボロが指さした方向を見ると毒々しい紫色の巨大な沼が見える。

 そして、その周辺は荒野として木一本生えていない。


「いいかぁ! あの森の生え際の境界線からは絶対に荒野に立ち入るな! 絶~対に、絶対だぞぉ!」


「入ったらどうなるの?」


「生きもんなら体が瞬く間に腐り落ちて死ぬ。 悪獣――ウィル・オ・ウィスプやレイスでもあん中に入ったら――一瞬で消滅する」


 悪獣とは悪霊やゾンビなどアンデットと呼ばれるモノや人に危害を加える精霊や悪魔といった精神生命体の事を指す。


「あれが神話時代に起きた戦争――”妖精郷アルフェイムの三柱女神”と”邪神”が戦った”神話戦争”の跡か……。 今も瘴気の猛毒が残るなんて、物凄く強くて厄介な相手だったんだな、邪神って……」


「ああ、そうだなぁ。 この世界究極戦力であり、”妖精郷アルフェイム”を司る三柱女神が邪神と相打ちになった所為で、俺ら妖精族の故郷――妖精郷アルフェイム、そしてトゥーレシアとファーレシアを行き来する道――妖精のフェアリーロードは閉ざされ、交流が立たれたぁ。 ファーレシアに渡った妖精族はこの世界に通り残され、故郷に帰る事もトゥーレシアへ行く事も出来なくなったぁ。 ……今は昔の話だぁ」


「……そうだね、アンタ」


 それ以降、ボロとレジは一言も言葉を口にせず、黙々と目的である古代遺跡まで歩き続けた。

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