第8話 ドワーフの養子

「今日からよろしくお願いします!」


 翌朝、ドワーフ夫婦に大声で元気よく挨拶するリシェン。


「う”あぁぁぁ~、デカイ声出すな! 頭に響く……」


 二日酔いの頭痛に顔を歪めるドワーフ男。


「全然、覚えてねぇ……」


「やっぱり……。 そうなるだろうと思ってたよ」


 男の様子から呆れて溜息を吐くドワーフ少女。


 髭男の名はボロ。


 騎甲の世界では知らぬ者がいいない有名なドワーフの名工だ。


 揉み上げ少女――もとい、女性の名はレジ。


 騎甲乗りで名を馳せた傭兵だった。


 二人共に百二十六歳。人間――ヒュノマスで言えば二十六歳の若者である。


 これでも二人は夫婦だ。


「で? どうすんの?」


 レジが夫のボロに尋ねる。


「ん~、人手が欲しかったのは確かだし。 ……まあ、適正を見てからだな。 ほれ、お前……確か、リシェンっつたか? スキルカード見せてみろ」


 首を傾げるリシェン。


「あれ? スキルカードの内容って他人には見れないですよね?」


 ボロは自分の懐から年代物の丸眼鏡を取り出す。


「スキルカードの内容が見れるこの眼鏡を使うんだぁ。 この眼鏡の所持には許可がいるんだが、俺はちゃあんと許可持っとるから安心しろぃ」


 リシェンはそれに納得して頷き、スキルカードを自分の手に顕現させる。

 それをボロに手渡した。


「なんだ? 七色のスキルカード? アンモライトやオパール……じゃあねえな。 金属みたいだし……てっ、七色!? まっ、まさか!!」


 慌てて眼鏡を掛けてスキルカードを見る。

 

「ファッ!? な、何じゃ、こりゃあぁぁぁーーーーーーっ!!!!」


 思わず頓狂な声を上げるボロ。







工技クギ理真リシン(リシェン)


スキルカード 虹色鋼アダマス


スキル適正:技能スキル、特殊スキル(1)、加護スキル、ギフトスキル


取得スキル


  技能 【一般教養(地球トゥーレシア・日本)】

      【語学(ファーレシア)】

      【家事】

      【育児】

      【農耕】

      【畜産】

      【ハーブ知識・栽培】


  特殊 【トウトマシン】(1)


  ギフト 技工神クウ【匠の神業】

      愛とマナの女神オフィーリア【庇護の愛寵】







 ボロは内容を一つ一つ慎重に確認していく。


 名前の項目をタップする。


 すると、リシェンの大まかな生い立ちの説明文が表示された。


 両親を亡くした孤児である事。

 事故で偶然にも地球トゥーレシアからこの世界――ファーレシアに渡った事。

 後、レイニィという婚約者がいる事。


 次にスキルカードを構成している種類の名前を凝視する。


(間違いない! 神の金属――虹色鋼アダマスだあ!!)


 スキルカードを構成しているアダマスとは神の領域――神の世界でしか存在しない、神の世界でも極々僅かしか取れないとんでもなく希少な伝説の鉱石である。


 この鉱石自体が世界最高の硬度を誇るが、この鉱石の価値はそれだけではない。

 素材に極微量混ぜるだけで、神器や神具と呼ばれる途轍もない高性能な魔道具が出来上がるのだ。


 特殊スキルの項目――【トウトマシン】は説明文を見ても良く分からなかった。


 ギフトスキルの項目――”技工神クウ【匠の神業】”と”愛とマナの女神オフィーリア【庇護の愛寵】”。


 技工神クウと愛とマナの女神オフィーリアは最近生まれた神だ。

 

 世界の始まりの時に生まれた幽冥のタルタロスと愛の神エロースとの間に出来た子であるらしい。


 同時にこの二柱は夫婦神でもある。


 ギフトスキルの詳細を、ボロは興奮で震える指でタップして詳細を表示する。




 【匠の神業】


 物作りや創作、特に騎甲やゴーレム、ロボットなどの知識、製作技術、操作技術に長じる。




 【庇護の愛寵】

                

 エッチの技術が上手くなる。十五を過ぎると自動的に不老不死効果と完全異常状態回復が

 発動。任意で起動のスイッチをON/OFF可能。心と体を通い合わせた相手に加護という形で

 スキルは伝播する。ただし、害意を抱くとスキルは消滅する。

 他、レイラインを流れる無尽蔵にあるマナを直接使用できたりとマナの扱いに長じる。




 【匠の神業】にの説明文にあるロボットと言う意味は分からない。

 だが、騎工師向けの能力である事は間違いない。


 特殊スキルはギフトスキルの影響を強く受けると言われる。

 ボロは【トウトマシン】を物作りとマナの扱いに関係した能力であると当たりを付けた。


 ともかく、リシェンはボロにとってただの労働力ではなく、途轍もない魅力的な人材である事が判明した。


「どうしたの、アンタ!? 突然変な叫び声上げて! ビックリするじゃない!」


「レジ! これ見てみぃ!」


 怪訝な目でボロを睨むレジにスキルカードの内容を見れる丸眼鏡をレジに押し付けるようにして渡すボロ。


 レジは訝し気に丸眼鏡を受け取り、その眼鏡を掛けてリシェンのスキルカードの内容を確認する。


「ファッ!? な、何じゃ、こりゃあぁぁぁーーーーーーっ!!!!」


 リシェンのスキルカードを見て驚くレジ。


 さすが夫婦。

 反応が同じである。


「それよりお前、トゥーレシアから来たんか!? しかも、ギフトスキルを持っとるって事は、現人神あらひとがみなんか!?」


「あ、はい、そうみたいです。 ただ、現人神というのは俺には良く分からないんですけど」


 ボロとレジはお互い両手を握り合い、興奮している。


「すっ、凄いもん拾ったぞ!」


「アタシ、コノ子、欲シイ! 騎甲操作、仕込ミタイ!」


余りに興奮しすぎて片言で喋るレジ。


「おお、いいぞ!」


「武術モ、教エテ、イイ?」


「おお! いいぞ、いいぞ! 手加減せんでドンドン教えたれ!」


「おっし! やった!」


 そして二人はリシェンの方に顔を向けて宣言する。


「「――と言うわけで、リシェン! 今日からウチの子な(ね)!!」」


「へ?」


「これから俺の事はお義父さんと呼んでくれぃ! だが、工房では師匠と呼ぶんだぞぉ!」


「同じく! 鍛錬中は師匠と呼びなさい! でも、普段はお義母さんと呼んでね!」


「え? え?」


 何が何だか状況が飲み込めず狼狽えるリシェン。


 こうしてリシェンは晴れてドワーフ夫婦の養子兼弟子になった。

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