遅過ぎた告白

「よし!追ってきては来ないみたいだ」


 その言葉を聴いて力が戻った。 まるで泥酔していたかのように抜けていた力が戻ってやや乱暴に身体にのしかかっている麻愉を押し返す。


「あっ…」


 帰ってきた言葉はあんなに威圧的だった彼女とは思えないくらいに弱弱しかった。 

 まさに女の子だと思えてしまうほどに。 妙な罪悪感が心に充満してくる。


「戻らなくちゃ…明さん、車を止めてください」


「……いいの?」


 その言葉はどちらに言ったのかはわからない。 戸惑うように車はエンジン音を響かせながら夜の山道でゆっくりと止まる。


「駄目!駄目だってば!あんなところに戻ったら今度こそ殺されちゃうよ!だから行かせない!行かないで!」


 涙すら浮かべて俺を止めようとする彼女に今までで一番ショックを受ける。


 こんな姿なんて見たことなかった。 いや想像すら出来なかった。 


 俺の中の麻愉のイメージはいつだって大人で頼りになる女性で恥ずかしながら尊敬もできる異性の友人だった。


 それがどうしてこんな風になってしまうのかわからない。


「気づかなかったの?」


 不意な問いかけに困惑した思考が中断される。


 彼女はこちらがドギマギするほどの泣き笑いで答える。


「好きよ…出会った時からずっと…止まることなくあなたを愛しているの」

      

 気づかなかった。 そんなことはないと思い込んでいたのかもしれない。 


 白音のことだけじゃなく俺もまたこの人に対して……。


 けれども奥歯を強く噛み締める。 とろけそうになる心と身体を締め上げる。


 もはや覚悟を決めた今の俺には……。 


 たとえまた一つ大きな罪を犯そうとも。 これ以上、停止しているわけにはいかない。


 もはや悩むことなど無いのだから。 気づいてしまったのだから。


「ごめん…俺、行くわ」


 言葉と同時にグイと彼女を引き離し後部ハッチの扉を開けてアスファルトに転がリ落ちる。


 そしてそのまま振り向かずに走り出した。 


「バカ~!絶対に許さないんだから~!」

 

 悲鳴にも似た尊敬していた彼女から浴びせられる。 それでも足は止まることなく真っ直ぐ動き続ける。


 足の向かう先は暗い山道の向こう。 かろうじて逃げ出すことの出来た鉄火場へと。




 




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