白音の拒否と二人の急接近
「えっ?いやです」
幸い白音は大学に来ていた。
講義を終えて、いつものように学食で待ちあわせ、テーブルに着いたところで先ほどの思いを提案するが、いつものようなホンワカとした笑顔でそれを拒否される。
「な、なんで?」
「何でもです」
力強く言われたことでそれ以上の言葉が中々出てこない。 しかし頭を懸命にフル稼働させながらどうにか紡ぐ。
「あ、あんな会合に行ったら…その…問題だろう?」
「何でですか?」
反対に問いかけられてしまうと気持ちを抑えられなくなってしまう。
「な、何でだって! あ、あんな会なんて……あんなろくでなし共の巣窟なんて!」
思わず叫んでしまった。 学食内にいるほかの学生達からの注目を浴びて、慌てて座りなおす。
そんな俺を白音は真っ直ぐに見据えていて、なんだか後ろめたくて瞳をそらしてしまう。
「だ、だからだな…その…緑友会はもう止め……」
「だからいやです」
「ど、どうして……」
「どうしてもです」
俺の動揺も意に解さないきっぱりとした物言いで断られる。
「だいたい変ですよ、私をあそこに入会させてくれたのは友和さんじゃないですか、今更になってやっぱりやめろなんておかしいです」
「い、いや…そ、それは…確かにそうなんだけど…」
「というわけで私は会を辞めませんし、今日の会合にも参加させてもらいます。ご馳走様でした、それじゃまた夜にでも」
自分の食べていた洋食セットAを食べ終わると白音は固まっている俺を置いてさっさと学食を出て行ってしまう。
あとに残された俺は午後の講義を知らせるチャイムがなるまでその場に呆然としていた。
まさか二夜連続で悩まされることなるとは思わなかった。
駅の壁に身体を預けながら雑踏すら耳に入らないで思考に没頭する。
いったいどういうことなんだ?
いや確かに緑友会に誘ったのは俺だし、入会に対して紹介したのも俺だ。
「そりゃいきなり辞めろって言われたら驚くのは当然だけどさ」
思わず口に出していたことに気づいて慌てて口をつぐむ。
とうとう思考が身体からあふれ出てしまったのかな?
微妙な詩的表現? に苦笑したくなるがすぐに笑いは苦いものとなる。
まったく何をやってんだ? 我ながら。
白音は会に入会はしていたが、まだ会合に参加したことはない。 だから変に場に慣れてしまう前に引き離そうと思ったというのに……。
心の苦渋は毒にも近くなって身体を駆け巡り、口内にヤニにも似た苦味へと充填されていく。
口の中がそれに満たされるように唾はドロリとした何かに思え、道端に吐き捨てる。
それでも状況は変わらない。 むしろ何の意味も無い。 吐き出したそれは後から後から身体の中から湧き出してますます満たしていくのだから。
「お待たせしました~!」
喧騒とは反比例するような柔らかい声が耳朶に入る。 白音が来たのだ。
「ああ…俺もちょうどいま来た…とこ…ろ」
駅のネオンに照らされた白音は俺が買ってやった薄乳白色のワンピースを着て、外掛けとして淡い紫色の上着を羽織っていた。
そしてその横で黒光りするような長髪とスレンダーな肢体にまとわりつくような白いシャツと黒いタイトミニをはいた麻輸も立っていた。
「お、お前…も来たのか」
驚く俺をいつものような不機嫌そうなつり目で睨みながら、
「ええそうよ、私が居たっておかしくないでしょ?私だって会のメンバーですもの」
「そ、そりゃそうだが」
「せっかくですから三人で行こうと思って麻輸さんも誘ったんですよ、駄目でしたか?」
「あら、そんなこと無いわよね?」
ニコリと笑顔を張り付かせながらも試すような目つきで射抜いてくる。
「い、いや…そんなことはないさ」
何とかそう搾り出すと、二人は顔を見合わせて笑う。 白音はニッコリと麻輸は皮肉に。
「それじゃ行きましょうか?白音はまだ会合の場所知らないでしょ、ついてきて」
「はい!」
俺を置いて二人は歩きはじめる。 まるで二人は友人のようで、俺が邪魔者のようだ。
「ま、待てって、俺も行くよ」
情けなく二人の後を追いながら、予想外の状況に心内は揺らぎまくっている。
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