腹を割って話しあう
さすがにこれには俺も参ってしまった。
誰のせいでこんなことになったのかわかっているんだろうか?
『半分は貴方のせいでもあるけどね』
ほら、早々に倒れてしまったので麻由の冷たい視線を俺が一身に受けることになっている。
「飲まないの?さっきから減ってないじゃないの?私だけ飲んでてもつまらないじゃない」
「あまり強くないんだよ……お前だって知ってるだろ」
さすがに上京してからは飲む機会が格段に増えたので自分自身の限界を計れるようになった。
もっともどんなに強い酒を飲んでも今日は酔えないだろうが。
いっそのこと俺も一気に飲んで白音と一緒にダウンしてしまおうかとさえ思ったが、
「いくら飲んだって寝かさないわよ…とことんまで話し合いましょ、今日は」
ほろ酔いでやや緩む頬と比例するかのような座った目で宣言してくるので、それは不可能だということを早々に思いしった。
いや、いつまでも逃げててもしょうがない。
白音と麻輸。 どちらも俺にとっては大事な存在だ。 その二人がいつまでも仲違いしているのを放置していてはいけない。
腹を割って話あわねば!
気合と共にビールの苦味を飲みこむが、ふとそこで気づいてしまった。
そもそも何で二人は仲が良くならないのか?
確かに麻輸と白音は性格的には正反対だ。 そういう意味では合わないだろう。
だが麻輸は常に俺に言っていた言葉がある。
常々人付き合いが苦手だった俺が彼女につき合わされ様々な人たちに挨拶をすることに自易して不満を漏らしていたときに、
「人間だもの…気に食わないやつもソリが合わないのもいるわよ……でもそれでも社会で生きている以上、嫌なことでもすり合わせて生きていかなきゃならないの。それが責任ある大人ってやつよ」
そう言いながら酒を飲み干す無表情の彼女は格好よかった。 その言葉、その行動が当時の俺にはまぶしく見えた。
そしてその言葉があったからこそ俺は変われたのだ。
だが彼女はあのときの言葉とは矛盾している行動をしている。 なぜだかそれがひどく悲しい。 そして同時に憤りの感情を持ってしまう。
あのときの言葉は嘘だったのだろうか。
今の彼女はなんだかちぐはぐに見える。 それは彼女と俺自身の関係が崩壊してしまうのではないかと思えるほどに…。
「なあ…出会ってすぐの頃に俺に言ってくれた言葉覚えてるか?」
「う~ん?どんなことよ?」
「気に食わなくてもソリがあわなくても、すりあわせて生きていかなければならない」
「ああ…そんなことも言ったわね」
彼女は酔っているからだろうかシンミリと言葉を返す。
「あれは嘘だったのか?」
搾り出した言葉の真意がわからないのか麻輸は顔を曇らす。
「嘘じゃないわ…今でもそう思ってるし、きっとこれからもね」
「それじゃ何で白音に対しては違うんだ?」
言いたいことがわかったのか、渋い顔になる。
「別にあの子にだって同じよ、ただ正直に言えばはっきり言って好きじゃないわ。そのせいでそう見えるかもね」
もしかしたらが嘘をついているということがはっきりわかる。
いつものようなどこかつまらなさそうに答えるが、俺と視線をあわそうとしない。
麻輸
「俺にまで嘘をつくなよ、あのカフェテリアで言ったことはそのままお前にも当てはまるんじゃないか?お前だっておかしいよ、白音が来てからさ」
「べ、別に嘘なんかついてないわよ、そ、それに今はこういう話をするために集まってるんじゃない……くだらないわ」
その言葉に頭の血がカッと昇る。
「くだらなくなんかないだろ! そりゃ白音が色々とアレなのは認めるけどな、俺にとっては大事なんだよ……あんたと一緒でな」
「べ、別にそこまで嫌ってるわけじゃないわよ、色々あるのよ」
「色々ってなんだよ?それが聞きたいんだ俺は……どうしてそんなに機嫌が悪いんだ?」
「そ、それ…は……その……」
珍しく口ごもる。 こんな姿を見るのは初めてだ。 アルコールのせいだろうかはたまた見慣れてない姿に刺激を受けたのだろうか、
「それじゃわからん!もっとはっきり言ってくれ!」
普段とは違うやや荒っぽい態度で彼女の肩を掴んで迫る。
いつもなら気後れしてしまうか気の強い麻輸に横っ面を叩かれているところだが、俺としてもここは責めどきだと痺れた頭で判断して勝負をかける。
「ちょっ…顔…近い…よ」
「頼む! 教えてくれ」
少し釣りあがりつつも黒目がちな麻輸の瞳は何か熱っぽく潤んでいた。 テカテカと光るような彼女の目に俺が写しこまれている。
まるで自分自身に問いかけるようだ。
それに反射された自分自身をそのまま己の目に入れ、もう一度口を開く。
「お願いだ…教えてくれ。そ、その…俺って気がきかないからはっきり言ってもらわないとわからないんだ…ごめん」
最後はまるで懇願するように…。 へたり込むように頭を下げて。
体質的に慣れることのない酒と昼間からの感情の高低に我ながらまいっていたようだ。
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