枝豆と裂きイカという最高の組み合わせ

 三人とも黙り込んだままマンションに向かう道すがら、麻由が足を止めた。


「せっかくだから飲みましょうか、気まずくなってもアレだしね」


 ツンと細い顎でコンビニを差して酒を買うことを提案する。


 気まずいって何だ……? 一体何が起きるって言うんだ……。


 不安が心に満ちそうになるが、俺も白音もその提案に異を唱えずにアルコール飲料を買ってレジに通していく。


 ちなみに俺と麻由はビール、白音は焼酎のボトルを購入した。


 あとはつまみになりそうなものを適当に……。


「さきイカと枝豆ってお酒と一緒に飲むために生まれたような食べ物ですよね」

 

 意外に渋い好みの白音はポツリと呟きながら両手にはさきイカの袋と冷凍の枝豆がある。


 おそらくは予算が足りないためどちらかにしようかと思案しているのだろう。


 その横から枝豆を奪い取る。 


「あっ…」


「俺も好きだから……俺がこっちを買うからさきイカは頼むぞ」


「は、はい……ありがとうございます」


 パッケージの表面にうっすらと霜を張った袋を両手で持ちながら見つめあう。


「ずいぶんと親父臭いラインナップね、私はこれにするわ、お願いね」


「チーズか~、これもまた酒のつまみには……っておい、ずいぶん高いな」


 昨今コンビにも安いだけではなくて高級品も扱うようになっている。


 麻由が枝豆の袋のうえにドサリと載せてきたものは有名メーカー産の高級チーズで値段は俺と白音が選んだ商品の合計額のさらに二倍もする代物だ。 


「付き合わされるんだもの、これくらい奢ってくれてもいいじゃない」


 ああ……しかも俺が払うのか。 


「そ、それじゃ二人で半分ずつにしましょうか?」


 気を使った提案を出してくれた白音を制して、俺は首を横に振る。


「いや大丈夫だよ……とりあえず手持ちの金で足りるからな」

 

 麻由の分まで白音に出してもらうのは何か違う気がするし、実際に迷惑をかけているのは事実なのだからそれくらいの礼はしなければならないだろう。


「それにしても……これ一つだけで枝豆あと二つ買えるよな~」


 未練がましい愚痴が口から出てしまうが、


「あらそれじゃ裂きイカと枝豆諦めてもう一つ買えばいいじゃない」


 ニコリとした顔でスパリと切り捨ててくれる。


 白音は麻由に対して苦手意識があるようだが、俺は彼女のそういうところには好感が持てる。


 ことグダグダと悩みすぎてしまう俺には彼女のはっきりとした性格が妙に心地よいのだ。


 もちろん白音のホンワカとしたところも気にいってはいるのだが……うん?


「ってお前もう飲んでんのかよ!」


「ふえっ?ちょっと緊張しちゃうんで……」


 コンビにを出てすぐの信号で後ろを向くと白音は名前と反対に顔を赤くしている。

 

 片手にはすでに三分のニに減った焼酎ボトルを握り締めながら……。


 恐る恐る顔を戻すと麻由も頬を白音とは別の原因でうっすらと染めている。


「い、いや……これは……その……」


 しどろもどろになって弁護しようとするが、さすがに良いフォローの言葉が出てこない。 

 

「……別にいいわよ、もう気にしないことにしたわ」


 あきれたのか諦めたのか?


 おそらくはその両方だろうが、すでに千鳥足になりはじめている白音を一度軽蔑するように見据えた後に視線を前に戻す。

 

 同時に信号も青に変わる。  


 代わらぬ歩調に僅かに苛立ちを込めた足取りで歩き出す。


 その後ろを俺達二人はフラフラとついていく。


 白音はアルコールによって。 俺はこれから先のことを考えて。


 

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