三人で麻由のマンションへ
「……それで?これからどうするの?」
広々とした室内には二人どころか三人は寝れるくらいのベッド、その横には窓くらいの大きさのテレビ、その前にはしっかりとした作りのテーブルがある。
そしておそろしいことにそれでも一人暮らしには十分のスペースを保っている。
なおかつトイレ風呂別、この部屋と同じ大きさのキッチンにもう一つ同じ大きさの部屋があるという。
そして駅から徒歩十分という立地条件。
驚くべきことに家賃は……。
「くだらないこと考えてないでしょうね?」
「い、いや!別に」
誤魔化しながらビールの缶に口をつける。
ま、まさかこれほどとは……。
「ひ、一人暮らしにしてはずいぶんと広いな」
「そうかしら……これくらいは普通じゃない?」
「い、いや……ど、どうかな~?」
自分から口を開いておきながら会話が続けることが出来ない。
ここまで口が重くなってしまうとは……。
これはいわゆる田舎者だった自分を色々と指導してくれた師匠筋の麻由相手だからだろうか?
それとも麻由との圧倒的な生活格差というかセレブ差というものを見せ付けられたせいか?
だって俺の家の総面積だけでこの部屋とキッチンくらいしかないし……。
他にもいくつか理由があるのかもしれない。
自分でも気づいていない理由が。
だが確実に一つだけ言える事がある。
チラリと後ろに視線を向ける。
そこにはこの部屋の主が使用しているベッドがあり、二人どころか三人くらい寝られそうな大きさに肌触りの良いシルク製のシーツとカバーがそこには敷かれていている。
そのど真ん中に本来の持ち主ではない女が赤らめた頬をあどけなく緩ませてやや大きな寝息を立てて寝ていた。
気が弱く、すぐにヘタれるが変なところで図太い俺の決して疎遠ではない友人が堂々と麻由のベッドで寝ていることに気後れしてしまっていることは間違いの無い事実であろう。
どうしてこんな状況になってしまったのか?
話は少し戻る。
プシューと沈没した白音はすぐに意識を取り戻したが、目を開き俺の顔を見るとまた同じようにプシュー、また気絶。
声を掛けて気がつくとまたプシュー。
今度は頬を軽く叩いて起こすとまたプシュー……。
「ああ!いつまで同じことやってんのよ!」
繰り返し再生しているような俺達の行動にとうとう麻愉がキレてしまう。
その怒声にやっと白音は意識をはっきりさせた。
「は、はい!すいません!」
「ご、ごめんなさい」
俺もほっとするが、麻愉の剣幕に彼女と二人で同時に謝ってしまう。
「と、とにかくだな……話を戻すとここは危険だ!白音をどこかに隠さないと……」
「そ、そうですね……私、家に居ないようにしないと……」
「危険ってなにから守るのよ?」
これ以上があるのかと思うほどの飽きれ果てた様子の言葉で完全に冷静になった。
「い、いや……それは……その……」
一体全体なんで我を忘れていたんだろうか?
白音を隠すってどこに? そもそも隠す理由ってなんなんだ?
「な、何で危ないんだっけ?」
「えっ?そ、それは……何でなんですかね?」
「……あなたたち、私をからかってるわけじゃないわよね?」
ピクピクと綺麗に整えられた眉を動かしながら問いかけてくる麻愉に俺達二人はバツが悪そうに縮こまっていた。
「もういいわ……白音さんだっけ?あなたは今日は私の家に泊まりなさい」
「い、いや……それは?」
慌てて止める俺を彼女がキッと睨みつけながら、
「なによ?私が危険だっていうの?そうでもしなきゃあんた達ずっとこのアホ寸劇繰り返すでしょうが」
「…………はい」
アホ寸劇という言葉に何も言い返せず、力なく俺は答える。
チラリと白音を見ると彼女もまた同じようにものすごく恥ずかしそうにしている。
それも当然か。
ろくに知らない人間の前でどうどうと……その……頑張ります!なんて宣言して、気絶したうえにわけのわからない寸劇を演じてしまったのだ。
俺も白音も穴があったら入りたい気分なのだから。
「ああ、あなたも来なさいよ?友和、まさか私一人にこの子の相手を今日一日ずっとしてろなんて言わないわよね?」
「あ、ああ……もちろんだ」
是非も無い。
いや最初からそういうつもりだったから問題は無いのだが、今日は本当に胃が痛くなりそうだなと溜息が出そうになる。
しかし何とか我慢する。
これからたっぷりとすることになるのだ。
今からそうなっていたら身体が持たん。
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