第36話◆2018年

目を開けると、眩しかった。


そのまま窓の外に目をやると、清々しい青空と心地よい温かみのある日の光。爽やかにそよぐ風と鮮やかな緑がこちらを見ていた。



正面を見ると、ゆかりがいた。



「やっと起きたね。」


本屋が付けてくれるブックカバーが付いたままの文庫本をパタリと閉じて、ズズッとオレンジジュースが入っていたであろうグラスに入ったストローから口を離した。



僕のアイスコーヒーのコースターはびしょびしょで、グラスの中はグラデーションがかっていた。



口元を確認したが、よだれは垂れていないようだった。



「ごめん、寝ちゃってたみたい。」



ふふっと、ゆかりは笑った。



「いいの。私も寝坊して来るの遅れちゃったし。」



そうか。

店の時計は15:00になろうとしていた。



ゆかりはこちらをじっと見つめていた。



「あれ?右のこめかみの所、なんか赤くない?かゆい?」



え?

指で触ってみたけれど、特に違和感はなかった。



「あれ?ゆかりも。」


僕は自分右のこめかみを、トントンと指で叩いた。



しかし、ゆかりが鏡を出したその時には、ゆかりのそれは消えてしまった。



変なの、と笑った後ゆかりは言った。



「あのね、赤ちゃんが出来たみたいなの。」


ゆかりの口元はキュッと上がった。


僕の目はなくなった。

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