第28話

難しかった。

中の世界しか知らない私は、なんで外の世界の人のことを気遣わなければならないのか。

こんなに辛い思いをしているのに、なあなあと健康に生きている人のささいな不幸について、なぜ考えなければならないのか。

それでも、母は言った。



「毎日看護師さんや介護士さんが、様子を見に来てお世話してくれるでしょ?

当たり前じゃないからね。

当たり前って思っちゃうのは依存っていうの。

今は助けてもらわないと生きていけないけど、それについて引け目を感じることはないのよ。

だからこそ、感謝の気持ちは忘れちゃいけないの。

あなたが人を助けてあげられるようになった時、存分に力になってあげればいいの。

受けた恩恵は、与えられる時が来たら返せばいいのよ。

辛い時に支えてくれる、助けてくれる人がいるのは、とても有り難くて幸せなことなのよ。」


そう言われても、その時の私はいつも優しい看護師さんのたまに機嫌の悪そうな時に彼氏と喧嘩したのかな。とか、すごく嫌な感じの人にでも、きっと家族がいてその人なりの正義があって生きているんだろうから仕方ないか。

くらいの気遣い方しか出来なかった。



なぜ私は世話をしてもらわなければ生きていけないのか。

なぜそれに感謝しなければならないのか。

なぜ母は私の中にいて、父は逝ってしまったのか。

私が生かされていることに、どんな意味があるのだろうか。



そんなことを思ったりもした。



そして、外の世界出てみると本当にいろんな人がいるものだと驚いた。


外の世界には外の世界の人たちの、私には知り得ない出来事があった。


あの時わからなくても、

振り返ってわかることが確かにそこにはあった。


自分が辛い時は誰よりも自分が辛いと思うし、他人のことを構ってはいられない。



なぜ毎日のように凶悪事件は起きて、なぜ毎日のように人は悩むのだろう。

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