第27話◆あかり

私は19歳になりました。

今ではすっかり普通の大学生です。


友だちも出来ました。

アルバイトも始めました。

一人暮らしもしています。



外の世界はまだまだ、不思議なことばかりです。



母の教えは私の中で、エンドレス日めくりカレンダーのように次々とめくられては繰り返し戻ってきました。



「あかり、あなたの笑顔はきっととっても可愛らしくて素敵よ。笑ってる人の周りにはあたたかくて優しいオーラが広がるの。楽しい時には遠慮なく笑いなさい。」


その時は、自分の笑った顔も声も全く想像がつかなかったけれど、鏡の中で笑うその顔と、友人に囲まれて笑うその声は、私の中で聞こえていた母の声と、父の見せてくれたウエディングドレス姿の母の口角のキュッと上がる口元と、父の何も見えていないんじゃないかというくらいにっこりした目元とよく似ていた。



この笑顔は人を癒すことが出来ているのだろうか。



また、人の気持ちについても母はこう言っていた。



「なんでわかってくれないの?って思うこと沢山あるでしょ?でもね、わかるわけないのよ。その人じゃないんだから。

だから、まずあなたがわかろうとしてごらんなさい。

もし、お互いがお互いをいたわってねぎらえるようになれば、

こんなに素晴らしいことはないでしょ?

自分が辛いとき、余裕がない時でも、人を思いるってすごく難しいことなんだけど、あなたにはそれが出来るはずなの。

あかり、あなたは辛くて苦しくて悲しい気持ちをよく知っているわね。

それはね、そうゆう人に寄り添えるってことなの。

手を差し伸べてあげられるし、強くて優しくなれるのよ。

だからといって、相手にはそれを求めすぎてはだめ。

相手があなたのことを考えてくれなくても、それはそれでいいのよ。仕方のないことだから。

人の辛さや痛み苦しみは、人それぞれだから、他人にわかりっこない。

でも、それを分かち合いたいって思ってくれる人がいるって、とても心強いことでしょ。

今はわからなくてもいい。でも覚えておいて。

慎ましく、謙虚に生きるのよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る