第26話◆ゆかり
娘に、あかりに私はなにをしてあげられただろう。
この閉じ込められた世界の中で、私が教えてあげられることは全て教えられたのでしょうか。
まあ、私がいくら言ったところで百聞は一見にしかずといいますし。
実際に見て感じてみなければ、わかるはずもないのですが…。
今後大きな壁や困難にぶつかった時に、少しでも私の言葉がよぎってくれて、ほんの少しでも心の支えになれると嬉しいと厚かましいことを思ってしまうのです。
心配は尽きません。
この先も、私も一緒に見守っていたかった。
楽しそうに笑う、あかりの姿を見て
一緒に笑いたかった。
彼氏が出来たとか、仕事はどうだとか、なんでもない話をしながらお洒落なカフェに行ったり、
ショッピングや旅行にだって行きたかった。
あわよくば、といいますか夢のような話ですが、あきらさんとあかりと。
誰もが思い描く家族団欒の幸せな光景を噛み締めたかった。
多くの人が当たり前に過ごす日常なので、実際に過ごしていたら味わいもしなかったかもしれない、そのなんでもない幸せな日々を過ごしたかっただけなのです。
私は、この先ひとりで生きていく娘が心配で気の毒でなりません。
多くの人が感じてきた普通は、彼女にとっては未知の世界なのです。
それでも、彼女にとって普通だったことは決して無駄にはならない。
残酷な現実を目の当たりにしてきた彼女へは、少々若い娘が知らなくてもいいようなことも教えてきました。
その為、冷めた所といいますか、歪んでしまった感情もあるかもしれません。
ですが、むしろ誰よりも優しく、誰よりも辛い人の気持ちのわかる、誰よりも強い子として生きていけるだろうと思うのです。
これから多くの人と関わり、友だちや同僚、素敵な人との出会いもあるはずです。
きっと、たくさんの人の愛を受け取り
たくさんの人への愛を与えることになるでしょう。
果たして…私は彼女を、本当にそんな子に育てることが出来たのでしょうか。
不安は尽きませんが、受験勉強をやるだけやった。
出来ることはやりきったんだから。と、試験前夜のような気持ちでした。
御守りもカツ丼もカンニングペーパーもありません。
あるのは積み重ねてきた日々だけです。
大丈夫。
私と、あきらさんの子だもの。
あかりなら大丈夫。
あなたならもう大丈夫。
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