第24話

この話が出た時、母はしばらく黙っていた。


私はよくわかっていなかったので、どうゆうことなのか?この医者は何を言っているのか?また痛いことをしないといけないのか?母に問うしかなかった。



難しい顔をしているであろう、唸り声と独り言をポツポツとテーブルの上にゆっくりと、それでいて規則的に並べてから、スッと息を吸った。



「あかり、外の世界に出られるかもしれない」



ん?


すぐには理解出来なかった。



え?

ここから出るって何?

この身体が私のものになるってこと?



「あなたが今まで見てきた世界は受動的なものだったの。

自分の目の前しか見ることが出来なかった。この部屋の天井や、起き上がらせてもらった時に目に入るテレビや外の風景。

誰かの力を借りて見てきた世界なの。

でもね、これからは自分で見たいと思った世界を自分で見ることが出来るかもしれない。ということなの。

わかる?」



わかるような、わからないような。

自分で見たい世界って一体なんなんだろう。

どんな世界が待っているんだろう。


勿論嬉しくないはずはなかった。

自由に動けて、話すことが出来るかもしれないなんて。

背中が痒いのを我慢するのはもううんざりだし、目の前を蚊がブンブン飛んでいるのも不愉快だし、着替えも風呂もトイレも自分で出来るなんて。



ただ、あんまりよくわからないけど

なぜか不安の方が大きかった。



その不安の原因がぼんやりと浮き上がってきた。


「ねえ、そしたらママはどうなるの?

私と一緒にそれを感じることが出来るの?」



ママは何も言わなかった。



「ママ、子離れしなくっちゃね。」



ママの声は震えていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る