第23話

ママの声は新薬が使われる日の朝には聞こえなくなった。


初めて新薬の話が出たのはその1週間前だった。


といっても、私の耳に入るところで医者と看護師が話しているのが聞こえた程度で、勿論私の元へ説明に来ることなんてなかった。


父が亡くなってからは、私の身寄りになる人間はおらずこの施設長が世間体もあり国からの補助も出るとのことで、引き続き面倒を見てくれていた。


その為、この治療についての決定権も施設長にあった。


リスクはあった。

もしかしたら、一気に血流が良くなり心不全を起こしてしまうかもしれない。

神経への影響もわからず、脊椎損傷の危険もあった。

脳へのダメージは多少なりとも避けられないだろうと言っていた。

とはいえ、脳については元々異常な波形であった為、どの道新薬の影響ということにはならないだろうとのことだった。


施設には研究協力費としてなかなかの額を受け取れるようだ。


万が一死んでも、最善の手は尽くしたと言い逃れが出来るし、むしろやっと厄介払いが出来るのだろう。


良くなったら良くなったで、自分で自分のことが出来るようになるなら、それこそ手間が省けるのは確かだ。


施設長はふたつ返事で新薬の使用に同意した。



一応言っておくが、施設長は悪い人ではない。

私が回復していく様を、本当に喜んでくれたし、感動すらしてくれていた。

その気持ちや感情には、よこしまなものはないように見えた。



私は今後、この人に恩返ししていくことになるのか…。


と、なんともいえない霧の入り口に入っていく感覚がした。



私はこれから、一体何のために生きていけばいいのだろうか。


一体何のために動けるようになったのだろうか。



そもそも、私はなぜ生まれてきたのだろうか。







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