第22話◆あかり

母はいろんなことを教えてくれた。


そのおかげであまり苦労せずに、大学に入ることができそうだ。


医者は奇跡という言葉で片付けるには、とても足りないといった風だった。


いくら新薬が効いて身体が動くようになったからといって、知能が伴っているなんて考えられないのだという。



新薬を使用する前の記憶はないということにした。


つまり、意識はなかった。ということにしたのだ。


そうでなければ、私に散々適当な扱いをしてきた人も、誰も聞いていないと思って私の部屋を吐け口にしていた人も、私が知ってはいけないことを目の前で晒してきた人も、血の気が引くどころの騒ぎでなくなってしまうだろうから。



ただ、観てきた映画や出掛けた場所などはなんとなく見たことがある気がする。程度には理解しているフリをした。


前世の記憶がなんとなくある、といったような曖昧なもの。

都合の悪そうなことは、わからないと言えばよかった。


今まで父がしてきてくれたことに、意味があったことはしっかり伝えたかったからだ。



私は18歳になった。


1年前に新薬が開発されて、といっても他の病気用の薬が特殊な形へ変化してしまい、それがたまたま私の症状に効果があるのではないか?というレベルの薬が特効薬となったのだ。



翌日には指先が動き、3日後には脚が動かせるようになった。

1週間後には頷くことが出来るようになった。


1ヶ月後にはぽつりぽつりと話すことが出来るようになり、3ヶ月後には少しずつ食事を摂るようになった。半年後にはゆっくりと歩けるようになり、

感情も出せるようになっていた。



動くことが出来るようになった。

意思を表すことが出来るようになった。

感情も出せる。話すこともできる。


でも、母と内側で話していたようにはなかなかできなかった。


どうして。

どうしてなの?ママ



ママってば。

応えてよ。

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