第18話◆ゆかり
(オンギャーオンギャー)
どうやら、私の子は無事に生まれてくれたみたい。
良かった。
私はこの子の成長を見守ることは出来ないけれど、あの人ならきっと立派に育て上げてくれる。
あきらさん、ごめんなさい。
あなたに妊娠と同時に癌の告知をしたあの日。
別れる選択肢も考えていた私にあなたは言ってくれました。
「幸せになるために結婚するんじゃない。
辛い日々を一緒に乗り越えていくために結婚するんだ。
僕は君と過ごせる日々を精一杯生きていきたい。」
一見胡散臭い歯が浮くようなセリフも、あなたの言葉だとなぜか信じることが出来た。
この子を、よろしくお願い…しま…。
「先生!目が開きました!」
あまりの眩しさに立っていたらくらりとしてしまいそうでしたが、私は横になっていたみたいで倒れずに済んだようです。
ボンヤリとした光の外からは、慌ただしく指示が飛び交い、私の身体には何かがいろんなところに沢山ついていて、触られるとなんだかとても不思議な感覚。自分の身体がマシュマロにでもなってしまったようでした。
そして、私は身動きがとれませんでした。
よくわからないまま周りの声や音を聞いくことしかできずにじっと耳に神経を集中させました。
でも、聞こうとすればする程機械音や器具の音、足音や人の声が混ざり合っていて、それはそれはとても混乱した状況だということしかわかりませんでした。
私は生きているということ?
(フグッフグッ)
こんどは光の内側から聞こえる気がした。
(フンギャ、フンギャッ)
もしかして、私の赤ちゃん…???
なぜか
私はその泣き声に向かって話しかけました。
おっかなびっくり初めて人の子を抱くように
ただ、普通にあやすことは出来ないのです。
表情を見ることは
実態が見えないのですから。
しばらくして、赤ちゃんは静かになった。
眠ってしまったようです。
まだわからない。
生死を
聞き覚えのある声が近づいてきた。
私の手に大きな何かが震えながら入ってきました。
でも、私はそれを握ることは出来なかったのです。
光の外の声がはっきりと聞こえました。
「この子は目を覚ましたんですよね?」
あきらさんの声でした。
でも鼻にかかる弱い声で、私は聞いたことのない話し方でした。
「目を開けることは出来ましたが、こちらからの呼びかけにも反応しませんし、
把握反射というのは、原始反射と呼ばれるもののひとつで赤ちゃんは感覚がとても敏感なので手のひらに軽く触れるだけでもその指をギュッと握ってくれるものなんですよ。
ということは、脳の方になんらかの障害がある可能性が高いです。」
誰?医者?障害?
その時私の手の中にある何かが強くくい込んだので、掴みたかったが、マシュマロはびくともしなかった。
私は…赤ちゃんなの?
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