第16話

とはいえ、父はたまにイライラしていた。


そんな時は言葉の節々ふしぶしとげがある。


声のトーンや大きさで父の気分はわかった。



父は決して気分屋ではないが、機嫌が悪いときもある。



寝たきりの私は、同じ体勢でい続けると圧がかかっているところの血流が悪くなるとその部分が壊死してしまう。特に後頭部、肩甲骨けんこうこつや腰の出っ張っている骨の部分、かかとはよく痛くなる。


なので定期的に身体の向きを変えなければならない。

左に向けたり、右に向けたり。

頭を浮かせてみたり、首を曲げてみたり、身体を起こしてみたり、脚を上げてみたり。


簡単な運動もする。といっても、腕を上げたり回したり、横に広げたり、斜めに動かしてみたり。

脚を上げたり、股関節こかんせつを回したり、膝を曲げたり、足首を曲げたり回したり。


それは父がいない時は、看護師さんやヘルパーさんが代わる代わるやってくれる。

言っちゃ悪いけど、人によって随分違う。

ひとつひとつの処置も、よくそんなところまで気付いてくれる。とその気遣いや心遣いに感激させられることもあれば

こちらが何もわからないと思ってか、そうでなくてもそうなのかは知らないが、大雑把おおざっぱというか適当というか雑な人もいる。

最低限のこと、もしくはそれすらもさぼろうとする人もいる。


すると、その人の目や表情や声色こわいろで私にどんな風に接してくれるかがなんとなくわかるように自然となってくるものだ。



例えば、床に何かが落ちていたり、

私が汗をかいていたりしても、

この人は絶対気付かないだろうな。

もしくは知らんぷりするんだろうな。

と思う人が見回りに来ると、案の定私が生きていることが確認できればその他のことは何もせずに部屋を出て行く。


身体の向きを変えるにしても、その時に服がぐちゃぐちゃで気持ちが悪い状態のままでも放っておくし、

ストレッチも形だけやっておけというような、効いてるんだかよくわからないようなやり方だったり、逆に痛いくらい引っ張ったり力を入れすぎたりと…言い出したらキリがない。



介護してもらっている分際で、感謝すべきその人に対して、こんなことを思うなんて私はなんて性格の悪いおろかで嫌な奴なんだろう。


そもそも人の気持ちなんて、わかろうとしてもなかなかわからないのだから

わかろうとしない人にはわかるはずがないのだ。



辛さや痛み、悲しみはその人にしかわからないのだから。


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