第14話

私は生まれた時から自分で身体を動かすことも出来なければ、自分の意思を表すことすら出来ない。


つまり、植物状態なのだ。


ただ、ずっと眠ったままではない。


起きればまばたきもするし、涙も流す。


ただ、意思や感情に連動しているかどうか他人にはわからない。



脳や身体に特別な異常が確認出来ないらしい。



脳波については、誰も見たことのない動きを示しているらしいので機能しているのかいないのか全くわからないという。

身体については、麻痺や硬直があるでもないが褥瘡じょくそうが出来ないようにしなければならないし、リハビリで動かしたりマッサージをしてもらわなければ筋肉や関節の機能は低下する一方だ。


咀嚼そしゃくができないので、胃に直接管が繋がっているし、排泄もオムツ頼り。


また、意思を表すことが出来ない。と言ったが意思はあるのだ。


感情もあれば痛みもある。

耳も聞こえていれば目も見えている。


そう。

意識はしっかりあるにも関わらず、何も出来ないこの恐ろしい状況をご理解いただけただろうか。



昔、海外で「ゴースト・ボーイ」という本が話題になった。


植物状態から意識が戻ったにも関わらず、誰にも気付いてもらえないまま8年が過ぎたという男性の自伝だ。


閉じ込め症候群というらしい。

名前だけで恐ろしいが、私はそれ以上なのだ。


目線や瞬きですら相手に意思を表すことができない。



こんな私を毎日看続けていてくれた父が、ある日から突然目の前にあらわれなくなった。


父の、最後のいってきますの声を

私は、あの日に限って寝過ごしていて聞くことができなかった。

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