第10話

「厳密に言えば、障害者とはいえません。まだ解明されていない病とでもいいましょうか。

病名がつけられない世界でもまれな症状なんです。」



それは、一体どういうことなのか。

障害者や難病者としての補助は受けられないが、介護が必要で…しかも僕が心身共に参ってしまう程の。

あまり想像がつかなかった。

身内の介護なんてしたこともなかったし、介護が大変だという話をする者も僕の周りにはいなかったからだ。


リューシュンは僕のポカンとした目を見つめて言った。


「今ピンときてないのはわかります。

自分の子どもの介護なんて、そんなに苦痛なものなのか。ヘルパーさんや看護師さんの手も借りて、やってやれないことはないのではないか。

本当に自殺の原因が我が子なのか。

そんなところですよね。」



この女はエスパーなのか、そう思った。

なんだか少しヤケになっていたのかもしれない。

どんな状態でも我が子は我が子。

自分が自殺しないために我が子を諦めろなんて…。

こんな綺麗事みたいなことを、僕が心から思っていることが信じられなかった。



そして、気付けばまた小さな僕はフラフラと口元からこぼれ出ていった。


「僕は、その子と生きていきます。」


リューシュンの左目からは涙がこぼれた。

その涙のすぐ後に右目からもこぼれた。

その涙はとても美しかった。

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