第7話

なるほど。

それで〝中絶〟の話に繋がるわけか。


なんでも、いずれは妻になる僕の恋人は妊娠9ヶ月の時に交通事故にあい亡くなるのだという。

そしてその事故の影響により、私たちの子どもは植物状態のようなまま生まれ、私はその子の育児とは呼べない介護に疲れ果て昼夜問わず働き倒したが自殺をしてしまうようだ。


僕が自殺?にわかには信じられなかったがとりあえずスルーすることにした。


その他にも様々な出来事ふこうを教えてくれた。


その不幸の全ての根源とは言い切れないが、つい最近宿った命を諦めることで最小限に収めることができるのではないか?


僕の人生を疲労と苦難なものから救うためには、それが最善のなのだとリューシュンは言った。


「では、あなたはなぜ私を救おうとしているのですか?」


「2030年ごろから、日本では全国的にうつ病などの精神疾患者や自殺者が急増していきます。

このままでは日本の人口は減る一方です。

その事態を重くみた政府が救済措置をこころみるようになります。

その1つの試みとして、兼ねてから研究が進められていたタイムスリップを利用しごく一部の人にしか適応されませんが、過去を変えるということが極秘で許されるようになりました。」


それで極秘任務なのか。

ようやく話が掴めてきた。

さて、ではいよいよ中絶について考えなくてはならない。


「では、なぜ妊娠が発覚した今あなたは現れたのですか?

なんなら3ヶ月くらい前に避妊をちゃんとするように、と忠告してくれても良かったのでは…」


僕が呆れるくらい甘えたことを言っていると気付いたのは、口から戯言たわごとという名の小さな僕が足早に出ていってしばらくしてからだった。

それはまるで、転んだ僕をなぐさめるよりも

転んでしまわないように僕の手をしっかり握っていてよ。と小さな子どもが言っているようだった。


リューシュンは少しだけ困った顔で笑いながら


「もちろん、そうすることも出来ましたけど…

まだ子どもも出来てないのに、その子は動けないし話もできないなんて言われても困りますよね?

そんなこと言ったら、あなたたちは一生子どもは作るなと言うことになり兼ねませんし、無事に健康体で生まれたとしても障害者や病気になる人もいる。

起きていない出来事に対して忠告したことで、石橋を叩きすぎて割れてしまうよりも

石橋が割れた後に、割れる前に戻してあげる方が賢明かと思ったのですが。」

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