第5話

手の平をこちらに向けて、口をかくすようにその女は笑った。

その仕草しぐさは高らかに笑えば高飛車たかびしゃに見えるが、目の前にいるその人は伏し目がちに歯を見せて笑った。


「そんなわけないじゃないですか。

まあそれはよくある話なんで無理もないですけどね。

私は、2040年からタイムスリップして来ました。リューシュンって呼んでください。」



2040年。22年先か。

思いの外近い未来なことが衝撃的だった。

22世紀になる前にそんなことが出来るようになるなんて。


「君は中国人か何かなの?」


日本ではあまりに聞きなれない名前なので、気になってしまった。


彼女はまた笑ったが、今度はアハッと口を少し開けた。


「違いますよ。由緒代々ゆいしょだいだいジャパニーズですよ!多分。

これは、まああだ名みたいなもんです。

ほら、そんなに遠い未来から来てる訳じゃないから、今後実際に会ってしまう可能性があるじゃないですか。

その時、あの時の!ってなったらダメなんです。」


意味がよくわからなかった。

2040年にいる僕が、今目の前にいるリューシュンと名乗るこの人に会ったその時に僕は気付いてはならない、リューシュンは気付かれてはならないということか。


「2040年にタイムスリップが出来るのは、実は極一部の研究者だけなんです。

なので、この事実は決して公には絶対しないでくださいね。

いくら親しい人にでも、絶対にダメです。

私は危険を冒しながらも、国の極秘任務であなたの目の前にこうして現れているのです。」


一体バレたらどうなってしまうのだろう。

いや、余計な好奇心で気軽に聞いていい話ではなさそうだ。

知らぬが仏。余計なことはしないに限る。


「では、あなたはなぜ私の目の前に現れたのですか?」


リューシュンとは呼べなかった。

もはや呼ぶ気配すら私の唇にはなかった。








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